あなたはだあれ?
ただ今、私はベッドの上でうさ耳少年と向かい合って座る、というなかなか味わえないことを経験していた。
今の私はというと、髪は寝癖でぐちゃぐちゃだし、可愛らしくもないスウェットを着ている。
男の子(うさ耳生えてるけど)の前で、この姿は恥ずかしい。
いくら干物女っぽい私でも恥じらいはある。
少しもじもじしながら、少年にぎこちなく聞いてみる。
「えっと…、うさ耳生えてますけど…あなたはどちら様でしょうか…」
そう言うと、今までも笑みを絶やさなかった少年が、もっとにこやかに聞き返してくる。
「あれ、まだ気づきませんか?」
「…?気づくって…、何を…?」
昔に会ったことあるっけ?とも、一瞬思ったが、すぐにあり得ないと首を振る。
うさ耳のある友達なんて、私にはいない。私には、というかそんな友達がいる、なんて人存在しないと思う。
考えこんでしまった私に、彼はくす、と笑い「昨日の夜、自分が何したか覚えてませんか?」と尋ねてきた。
もしや、私本当に何かやらかしちゃったの…!?
こんないたいけな少年に…!?あんなことやこんなことを…!?
少年の言葉に、すぐさまそっちの方向の心配をする私。めちゃくちゃ焦っている私に対して、少年は涼しい顔をしている。…少年の様子を見るかぎり、何もなかったようだ。
…少しでも変なことを考えた自分に嫌悪。
ちゃんと、真面目に思いだそう。…昨日は、レンが来て、エサあげて、その後にお風呂入って…。
「……!レンと一緒に寝た!」
レンの入っていたケージを見てみると、やっぱりいない。
「やっと、思いだしてくれました?」
ふわふわした笑顔でそう言う少年。…ということは、
「…レン、なの!?」
「そうです!あ、でも俺には立向居勇気って本名があるんです」
…あのタグに書いてあった名前だ。てっきり育てた人の名前かと思ってた。
「あなたの名前も教えてください!」
きらきらした笑顔で聞いてくる少年。確かに相手だけに名乗らせるのは、失礼だ。…まあ失礼にならなくても、この笑顔で聞かれたら答えない、なんてできないだろうけど。
「私は優奈」
「優奈さん、ですね!」
満面の笑顔で私の名前を呼ぶ彼。く、くそう…可愛い…!
可愛いけど…、
「…人間になるなんて、聞いてない…」
誰が人間になると知っていて、ペットを飼うだろうか。思わずそう呟くと、彼はポケットから一枚の紙を取り出した。
「優奈さん、ここ見てください」
「…ここ?」
彼の指差す先を見ると、とても小さな字で
※時たま動物が突然変異を起こすことがあります。
と書いてあった。
「と、突然変異…」
なんだか詐欺にでもあった気分だ。
「すみません…、迷惑ですよね。いきなりこんなことになって」
私の様子を見ていた彼は、落ち込んでしまったみたいで、しゅんとしている。うさ耳も一緒に垂れているのを見ると、耳は感情も表すようだ。
それにしても可愛いなー。
「いいよいいよ、気にしなくて。なんか弟できたみたいでうれしいから!」
「…!ほ、ほんとですか…!?」
ぱああっと明るくなっていく表情と共に、耳も元気を取り戻す。
可愛い可愛い可愛い…!
感情のままに頭を撫でまくると、くすぐったそうに目を細め、耳を嬉しそうに上下させた。
「〜〜っ!これからよろしくねっ!えーっと、…何て呼んだらいい?」
「勇気でいいですよ!お世話になるし、何より年下ですから」
「じゃ、じゃあ…勇気君?」
ちょっと恥ずかしいながらも、呼んでみる。
「…はい!」
今までで一番の笑顔。
「〜〜っ!!」
キュン死にしちゃいそうです。
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