07
河川敷まで走っていくと、小学生相手に練習している守の姿が見えた。
ベンチにいる秋のところに降りていく。
「秋!どう?練習の調子は」
「ふふっ、楽しそうにやってるよ」
「ふふ、ほんとだね」
やっぱり力の差があるから、多少物足りないのかもしれないが、すごく生き生きしてサッカーをやっている。
私は、こういう守が見たいんだ。
しばらく練習を見ていると、ツインテールの少女、まこがベンチにドリンクを飲みにやってきた。
「まこ!また上手になったね!」
「譲ちゃんっ!ありがとう!これも円堂ちゃんのおかげだよ。あたしたちもだいぶまとまってきたよね!」
「うん!いいチームになったね」
にこにこと話す私達。その時、コートではバンダナをした少年、竜介がシュートを打とうとしていた。
「こんどこそきめてやるっ!オレのひっさつシュート!うわぁっ!」
「!」
竜介が蹴ったボールは、ゴールに向かうことなく、近くを歩いていたいかにも不良とわかる2人組のところへ。
「うおっ!誰だぁっ!コイツ蹴ったの!」
「だ、大丈夫ですか!?すみませんでしたっ!」
守がすぐさま謝りに不良の元へと駆け寄っていく。
「あの、ボールを返して…ぐぁっ」
「…!守っ!」
不良の小さい方が守の腹を蹴った。いきなりの蹴りに、守は地面に膝をつく。
私は居ても立ってもいられず、秋の制止も聞かず守のところへ駆け出した。
「守に何するんだ!」
「なんだ?お前。邪魔すんなっ!」
「うわっ!」
大きい方にドンッと肩を押され、尻餅をつく。いくら運動神経がいいといっても、こうも体格差があれば力負けする。…っ、私が女だから、守を助けることができないのかっ…!?
「ボールってこれかぁ?」
背の高い方の不良が、ボールに座る。そして小さい方が守のジャージを見て、あれー?と声を上げた。
「雷門中じゃねぇか」
「雷門中?」
「部員の全然いねえ弱小のサッカー部ですよ」
「ククッ、くだらねえ。ガキ相手に球蹴りかあ?」
その言葉に、カチンときた。
「お前らっ…!それ以上サッカーを、守を馬鹿にするなっ!」
一発殴ってやろうかと、痛む尻を押さえ立ち上がる。すると、「譲は手を出すな!」と守に止められてしまった。
ぐっ…、と我慢すると小さい方がハハッと笑いながらもう1人へと言う。
「安井さん、お手本見せてやっちゃどうです?」
「いいねえ、やってやろうじゃねぇの」
そう言って立ち上がると、あろうことかボールに唾をはいた。
「「…!」」
こいつら…!許せない!!
「何てことするんだ!それはあんたが汚していいものじゃない!」
私は声の限りに叫んだ。
「うるせえなぁ。いいか、俺が手本見せてやる。よーく見とけよ。あらよっと!」
不良はボールを蹴ると同時にこけた。そのせいで、ボールはベンチにいるまこのところへと向かっていく。
「…っまこ!危ないっ!」
ここからじゃ、助けられないっ!
誰もが、まこにボールがぶつかると思っただろう。しかし、それは1人の少年によって防がれた。
──ドォンッ
軌道のそれたボールは、白いツンツンした髪の少年によって、蹴り返されていた。炎をまとったそれは、不良の顔面へと勢いよく突っ込む。不良の顔は真っ黒だ。小さい方が倒れた奴を背負って、覚えてろよ!という、いかにも負け犬な捨て台詞を残して、何処かへ消えた。
しかし、私はそんなこと目に入らなくて。目の前の、炎をまとうキックを放つ少年に釘付けだった。
軽やかに着地した彼は、まこがありがとう、というと軽く微笑み立ち去ろうてする。
(紳士だ…)
「待ってくれ!お前のキックすげーな!サッカーやってんのか?どこの学校なんだ?良かったら一緒にサッカーやらないか!?」
守がツンツン髪の彼にたくさん話しかけるが、彼は無言で階段を上り帰ってしまった。
(…かっこよかった。あれは絶対サッカー上手いな)
私は彼の背に向かって、ちゃんと聞こえるように「ありがとう!」と叫んだ。
(あんな奴とサッカーできたら楽しいだろうな)
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