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練習の合間の休憩がてらに皆を集めて、春奈から尾刈斗中の"怖〜い噂"とやらを聞くことになった。

「噂というのはですね…、尾刈斗と試合した選手は、3日後に全員高熱を出すとか…」

「尾刈斗に風邪ひいてるヤツいたんじゃないのか?」

守がそういうと、近くにいた風丸やマックスがそんなもんだろ、とあまり本気にしていないのが目についた。

すかさず秋がぴしゃりと真面目に!と叱る。守も含め3人はちゃんと春奈の話に耳を傾けた。…さすがだなあ、秋。

「他にはですね…、負けそうになるとすごい風が吹いて試合が中止になったり、尾刈斗のゴールにシュートをしようとすると、足が動かなくなったり…。こんな感じですね」

「本当なんですかね…」

春奈が話し終えると、宍戸が不安そうな表情で言った。

「やっぱり、豪炎寺さんに…」

宍戸がそこまで言うと、染岡が怒ったような声でそれを遮った。

「FWは俺がいるだろ!」

「…私も、あんまり豪炎寺に頼りすぎるのはよくないと思う。人に頼ってばっかりじゃ、強くなれないよ?皆で力を合わせて勝とうよ!」

私が1年生達の目を見てそう言うと、マックスが私の肩に手を置いて言う。

「元からいたメンバーで頑張るのもいいと思うけどね」

「そうそう!ほら、練習再開しよ!」

私の言葉に1年生達は浮かない顔をするのだった。

(このままで大丈夫かな…)


* * *


──鉄塔広場

部活が終わってから、私は守と鉄塔広場に来ていた。

今日は自主練をする気にはなれなくて、守の特訓をベンチで見ている。

守の特訓はやっぱりタイヤを使うものだったけど、前と違うのは手のひらではなく拳でタイヤを受け止めるということだ。

「だあぁーっ!」

「くっそーっ!」

さっきからこんな調子。見てるだけでも痛そうだ。特訓が終わったら冷やしてあげよう。

そんなことをぼーっと考えていると、見慣れた水色の髪を揺らして風丸がやって来た。

「やっぱりここにいたのか」

「風丸!」

声をかけられて風丸の存在に気づいた守は、構えていた手を降ろし、振り返る。

「ま、守!危な…」

跳ね返したタイヤは、さっきまでと同じように守に向かっていく。すぐに声をかけたが…

──ドォーンッ

「うがっ!」

…遅かった。顔も冷やさなきゃ。

一旦特訓を中断して、3人でベンチに座る。

「練習変えたのか?」

「ああ、次の段階だ!」

私は守の手を冷やしながら、2人の会話に耳を傾ける。

「染岡焦ってるんだろうな」

風丸がこう切り出すと、守も少し思い詰めた様子で言葉を返した。

「…うん。あいつがあんなこと言い出すなんて思ってなかった」

「やっぱり風丸も気づいてたよね…」

私がそう言うと、風丸はこく、と頷いた。

「…1年生が豪炎寺を頼るのもわかるよ、あんな凄いの見せられたらさ。でも、俺だって負けられないって、もっと頑張って力をつけなきゃって、そう思わなきゃ強くなれないんだよな」

「うん。誰かを頼って試合して勝っても、意味ないんだよね。皆が1人1人強くなって、皆で勝たなきゃ」

風丸と私がそう言うと、守は困ったように笑いながら言う。

「皆、お前達みたいに思ってくれたらいいんだけどな…」

「それを導くのがキャプテンの役割じゃないのか?」

風丸が微笑して言った。

「…そうだな。皆今は豪炎寺に頼りすぎてる。豪炎寺がいれば勝てると思ってる。サッカーは11人でやること忘れてるんだ。…俺さ、豪炎寺を無理に誘おうとは思ってないんだ。今の俺達で強くなれたらいいなって」

「守…。…きっと、大丈夫だよ。きっと、皆で強くなっていける」

自然と優しい笑みが出た。

意思の強い瞳でそう言う守を見たら、今は不安がいっぱいの雷門サッカー部だけど、何だか大丈夫だと思えた。



(きっといい方向に進んでく)




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