RPGパロで4213


酒場で時間を潰していた俺は、ひょろりとした印象の男に声を掛けられた。

「その剣重くないの?」

やけに涼やかな声だ。
グラスを置きながら、ごく自然な仕草で真正面の席に着いた男を見る。

綺麗な顔をした男が、綺麗ではない笑いを浮かべながら俺を見ている。

「…ああ。見た目のわりには重くないな」

「ふーん。俺さ、本当は剣士もいいかなーって思ってたんだ。今の職業も気に入ってはいるんだけどね。そろそろ飽きてきたし、ジョブチェンジしようかなーって」

パーティを組もうという声がかかるのかと思ったが、そうではないらしい。けれど暇な事に変わりは無かったので、適当に相槌をうつ。

「でも剣士って、皆力自慢ってタイプの人が多いからさぁ。あ、そういや君のレベルっていくつ?」

「1だ」

「…なるほど。だから同行者を探してたってわけか。回復役も無しに行くには、この先の森はキツめだからね」

「トムさ…色々教えてくれた先輩がそう言ったからな。で、手前はいくつなんだよ」

「俺?花も恥じらう21歳だよ」

「………………」

正直に言おう、俺は気が短い。
明らかにこちらをからかう色を隠さない相手と、朗らかに会話など出来ない程には。

「あー、待って待って!俺が悪かったよ。んー、そうだな…からかったお詫びに君と組んでもいいよ。俺、シーフだけど回復魔法も使えるし。自分で言うのもなんだけど、かなり役に立つよ?」

「……いくらだ」

「初回サービスでタダでいいよ。基本的に俺高いんだよ?今がチャンス!なんちゃって〜♪」


【シーフ の いざや が仲間になった!】


「…手前、いざやって言うのか」

「うん、"臨也"って書くんだけどね。あ、君にはちょっと難しいかな?てか、文字書ける?」

「………手前が俺を馬鹿にする天才だってのはよく分かった。途中、剣が滑ったら悪ぃな」

「あっはは!レベル1にやられる程、俺弱くないよ?」

確かに臨也は、この酒場に居る誰よりも落ち付きはらっている。
ふざけているが、出来るヤツ、そんな印象だ。性格は最悪だけど。まぁ、タダで付いてきてくれるって言うんだから文句を言うのはやめよう。バトル中に同じような事を言われたら、マジで切っちまうかもしれないけど。

「で、君の名前は?勇者さん」

「……平和島 静雄だ」

「そっか。じゃあ、シズちゃんだね!」

「………………………」

トムさんの助言がなきゃ、コイツ本当にここで叩き切ってるんだけどな。
冒険には回復役がいるってトムさんが言うんだから、それはきっと正しいんだろう。俺は剣は振れても、魔法なんて欠片も使えねぇし。

「―――いくぞ」

「うん。シズちゃんの初体験、スタートだねぇ」

「紛らわしい言い方してんじゃねぇよ!死ね!」

こうして俺達の冒険は、なんとなく始まったのだった…。










シズちゃんのレベル1は全然1じゃない




「シズちゃんってさぁ、滅茶苦茶だよね」

「あ?」

「回復役なんていらないじゃん!モンスターの攻撃受けてダメージゼロとかなんだよそれ!レベル1の癖に」

「相手が弱ぇんだろ。つか、なんで手前がボロボロなんだ?」

「ようやく気付いてくれて有難う。バトルが始まると、敵味方関係なく切りつけてくる誰かさんのお蔭でね!てか、なんなのシズちゃん。常にバーサクモードなの?」

「いや、なんか手前黒くて敵っぽいんだよ」

「うっ…シズちゃんのバカー!!」






なんかチョロチョロしてんの、シズちゃん的には、全部敵








深夜、宿屋にて



元々眠っては居なかった。
だから、自分を覗き込む男の手が触れる寸前に目を開けたのは、当然だった。


「なに?寝込みを襲いにきたワケ?そっちまでサービスするって言った覚えはないんだけどなぁ」

「……傷、見せてみろ」

「―――は?」

「だから、…昼間の、傷だよ」

「もうとっくに治しちゃったよ。…なに、シズちゃん心配で眠れなかったとか?」

「別に、そんなんじゃねぇよ。ただ…ちょっと気になっただけだ」

「ふーん…。じゃあ、一応傷跡が残ってないか見てよ。ああ、暗くてわからないか。じゃあ…、触ってみる?」

「……ホントだ、ちゃんと治ってるな」

「んっ、…でしょ?」

「良かった。じゃあ、俺寝るわ」

「……………え、ああ、うん…おやすみ」

「ああ」


















「……ばーか」






純粋な親切を向けられるのは、考えてみれば久しぶりだ。
こんなにくすぐったいモノだなんて、忘れていたくらいには。










森を抜けて、




「散々パーティ解消だとか言ってたのに、俺でいいのかよ」

「うん。俺シズちゃん気に入っちゃったんだ。正式な冒険メンバーに入れてよ」

「…………おう」

「あっれー?シズちゃん照れてる?」

「うっせぇな。初めて仲間が出来たんだから…喜ぶくらい、別に…いいだろ」

(あれ?なんか可愛いんだけど?)

「…し、シズちゃん」

「んだよ」

(あ、よかった。やっぱ可愛くない。うん、良かった)

「これからよろしくね」

「…おお」

初めて触れた手は、なんだかやけに暖かかった。












その後の二人



「シズちゃんさぁ、魔法覚える気全く無いでしょ」

「…剣士って魔法使えんのか?」

「使えるよ?攻撃力強化とか、防御力強化とか、行動回数増とか。ああ、あとは敵を猫耳に変える魔法もあったっけ」

「……猫耳にするとなんかあるのか?」

「うーん。場が和む?ほら、こんな感じ」

ポンッ

「…なっ!手前、なにしてんだよ!」

「あはははは!シズちゃん、かっわいー!!」

「ちょ…!耳引っ張んな!!」

「だぁって、身長届かないんだもの。あ、シズちゃんちっさくなる?子供化の呪文も俺マスターしてるんだよねぇ」



次の日、俺は強制的に魔法使いから、猛獣使いにジョブチェンジさせられた。
シズちゃん、かなり横暴だよ。

まぁ、猫耳がかわいーから許すけど。


「……なんで取れないんだよ?!」

「あはは。この俺がかけた魔法が、そんな簡単に解けるわけないじゃない」

「魔法っつーか、呪いだろ…」


おや、良く分かったねぇシズちゃん。

ちなみに魔法が使えない猛獣使いならいいやって思ってるみたいだけど、今の君だと傍から見た俺達がどう見えるか…うん、まぁ気付いてないなら構わないけどね。







「シズちゃん、シズちゃん。お手」

「死ねよ、バカ」


おやおや、レベル1じゃあ飼いこなせないみたいだ。

それじゃあ、魔法の効き目があるうちにレベルアップに勤しむ事にしようじゃないか。ねぇ、シズちゃん?








end




この二人は、シリーズで連載したい二人でもあります。RPGにはときめきが…!



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