静臨百合


両親も弟も出払っている日に限って、やってくる人物がいる。
何を嗅ぎつけたのか、はたまた事前にそういった情報を仕入れているのか……まあ確実に後者なのだろうけど。
私はどうにもそいつのことが苦手だ。人の話は聞かないし、やたらべたべたしてくるし、おまけにしょっちゅう喧嘩しかけてくるし……
……その人物とは、言わずもがな……

「やっほーシズちゃん、泊まりに来たよー」

今、窓から土足で不法侵入してきた折原臨、なのだが。





**




「ってかさ、そんなにリンがシズちゃんちにあがるの嫌だったらさー、鍵かければいいじゃん」
「……この前鍵ぶっ壊したの、どこのどいつだよ」
「リンそんな野蛮人じゃないもん。それ自分のこと言ってんじゃないの?シズちゃん」
「……」
「ああああああっつぅ!!何すんのバカッ!シズちゃんのどS!!」

だれがどSだと言いつつ、床に零れたお茶をタオルで拭く。
……というか私は何でこいつなんぞのためにお茶淹れてんだ……。バカか……。

「もー!制服シミになるじゃん!シズちゃんてホント後のこと考えてないよね!」
「それはこっちの台詞だ。ほら、これで拭け」
「…〜〜!これ床拭いてたやつじゃん!もー!」
「いちいちうっせぇな。近所迷惑になるだろうが」
「シズちゃんが悪いんでしょ!全く……いいから早く別ので拭いて」

ほら早く、とやけに高圧的な態度でソファに腰掛け足を組む臨に、かつてないほどの殺意が沸いたが(今までにも数回……いや、数回以上にあったけど)、生憎私には女の子を殴る趣味はない。ぶるぶると震える拳を押さえつつ、仕方なく別のタオルで臨の制服を乱暴に拭いた。

「ったく……。これだからシズちゃんは……。あっ」

ぶつくさと文句を垂れている臨が、何かを発見したかのような声をあげた。
臨の顔を見ると、何やらいつもよりキラキラと輝いている……ような気がする。
臨がこんな顔をする時は大抵悪だくみか何かを考え付いた時なので……私は臨の顔に思いっきりタオルを投げつけた。

「っぶゎ」
「あとは自分で拭け」
「……んふふー。そんなこと言ってシズちゃん、まだ拭けてないとこあるよ?リン……シズちゃんに拭いてほしい」
「話を聞け」
「ほら、こことか……こことか?」
「死ね」
「まあまあ、恥ずかしがらないでさ……っと」

臨の手が私の腕をひき、思わずバランスが崩れた。声をあげるより先に、私の体は臨の体の上にダイブした。

「ああーシズちゃんいい匂い。お風呂上がりっていいよねぇ。あ、シャンプー何使ってんの?」
「お前はおっさんか……!離せ、ばか」
「やだー。シズちゃんがちゃんと拭いてくれるまで離さないー」
「子どもか!」

臨から離れようにも、臨の手が腰に回っているようで身動きが取れない。
くそ……っこれだから何考えてんのか分からねぇ奴は嫌いなんだ……!

「あはは、シズちゃんって見かけによらずウブだよねー」
「だま……って、どこ触っひゃぅ!」
「どこ触ってるでしょー」
「あ、のなぁ……!」

何考えてんだてめぇは!と、怒鳴ろうと思ったが、半ズボン(中学の時の)の中に侵入してくる臨の手に……くすぐったいやら恥ずかしいやらで……ああ、もう!

「……シズちゃん、可愛いね」
「うっさぃ……!」

私の太ももやオシリを触って何が楽しいのか、臨はにやにやとしている。ムカつく……!こいつが男だったら確実にぶん殴ってるのに!


「んふふー」
「なに笑って……って!」

なななな……!ほ、本当にどこ触ってんだこいつはー!!

「ば、ばか……!やめ……!」
「えー、今やめたらつまんなぶふぇ!」

私は、ソファの上にあったタオルを、また臨の顔に投げつけた。
その隙に臨の体の上から離れる。

「いったー……!本気で痛いし!何すんのシズちゃん!」
「それはこっちの台詞だ!」
「ぶー。別にいいじゃん。ね、続きしよ?あ、ベッドがいいの?」
「違っ……それに、あ、あんなのは……高校卒業するまでダメって決まってんだぞ!!」

肩で息をしながら言うと、ぽかんとした表情の臨が私の方を見ていた。
な、なにかおかしいこと言ったか……?と、とにかく今日のところはコイツを追い返さないと危険だ……!

「な……」
「ん?」

そんなことを考えていると、臨が小さく何かを呟いた。

「……なんでそんな可愛いこというの……シズちゃんのくせ、に……」
「……お、おい?」


ばたん、と臨の体がソファの上に倒れた。気を失ったのか、ぴくりとも動かない。


……ええええええ
何こいつ……しかも何か幸せそうな顔してるし……。

……。


私は、とりあえず臨の体の上にタオルケットをかけ、そして自室へと向かった。

何故臨が気を失ったのか、理由を聞きたいような気もするが……やっぱり身の危険を感じるので聞くのはやめておこう。


「……結局何がしたいんだ。あいつは」


電気を消して、目を閉じた後、
私は一つ大きな溜め息をついた。










バニラ
(リンはシズちゃんといちゃいちゃしたいだけなの!)











――――――――――――――

ミトさんより再び素敵なお話を頂きましたv

ミトさんの書かれる静臨百合が大っ好きなので、もう頂いた日から顔がデレデレしっぱなしですvV

素敵なお話を、有難うございました!!




back







第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!