幽霊アパート。


7歩程で部屋の隅から隅までを網羅出来る――良く言ってアットホームな、事実を口にしても構わないなら兎小屋のような――そんな部屋が、俺の居場所。


居場所の持ち主は、平和島静雄。
今は、ね。









「ただいま」

帰ってきたシズちゃんが、真っ暗な部屋に灯りを付ける。
元々夜目が利く方だから、俺には灯りとかあんまり必要じゃないんだけど、うん。こっちの方がいいね。

「おかえり、シズちゃん」

もう随分と前から呼ぶ事にしたあだ名に、シズちゃんが怒る事はない。

「……疲れた」

ただ、心底疲労した、という声音を零すだけ。

「お風呂沸いてるよ?」

「―――風呂、」

「うん。いってらっしゃい」

ひらひらと手を振れば、シズちゃんはふらふらとした足取りでバスルームへと消えていった。
よっぽど疲れてるんだなぁ。大変だね、地道に働くしかないって事は。

「…あ?」

シズちゃんが、バスルームの扉の前でピタリと止まる。
やだなぁ。言ったじゃない。お風呂、沸かしておいたよって。

「……………この部屋、なんか変だよな。勝手に風呂が沸いてたり、メシが出来てたり…まぁ、有難いからいいけどよぉ」

「ふふふ?そーお?」

シズちゃんだけだ。
脅しても何しても、気付かない。

一周して世話を焼き始めたら、今度は有難がる珍しい人間って。





ああ、紹介が遅れたね。
俺の名前は、折原臨也。この部屋で、大分前から幽霊をやっている。

まぁあれだ。世間一般では俺みたいな幽霊の事を、自縛霊とも言うみたい。
この洗練された俺が、実に不釣り合いな狭っくるしい部屋に縛られた理由は――まぁ、いいじゃない。

人間、たまには失敗もなきゃ可愛げがないよね。
俺の場合、唯一の失敗が死に直結っていう笑えない結果だっただけの話。ちょっとしたヘマが原因で、この部屋で、俺は殺された。



いつだったっけ?
もう、覚えていないくらい昔の話。



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