【赤ずきんちゃんパロ】(カオス)
・登場人物
赤ずきんちゃん 静雄
お母さん トムさん
オオカミ 臨也
昔々あるところに、赤ずきんちゃんと呼ばれている青年がいました。
「トムさん、この服使い物にならなくなったので、捨ててもいいっすか」
「あー…。ま、いいけど。これで何着目だ?殺る時は出来るだけ返り血浴びねぇようにしろよな」
赤ずきんちゃんは、その可愛らしい名前にそぐわず森一番の豪傑でした。
ちなみに、何故赤ずきんちゃんと呼ばれているのかと言うと……
少し前に森を荒らす悪い輩をやっつけた際、着ていた白い服を返り血で真っ赤に染めたことから、(畏怖の意味も込めて)そう呼ばれているのでした。
「おーい、静雄。これいつもの所に届けてきてくれ」
「はぁ。じゃ、行ってきます」
「明日の朝までには帰って来いよ」
赤ずきんちゃんは、お母さんのトムさんからおつかいを頼まれたようです。
赤ずきんちゃんは、お母さんからずっしりと重いバスケットを預かり、家を出ました。
(バスケットの中身を覆っている布からは、アサルトライフルの真っ黒な銃口が顔を覗かせていましたが、赤ずきんはいつものことだと思って見て見ぬふりをしました)
(間)
どれくらい歩いたでしょうか。二つほど山を越えたところで、赤ずきんちゃんは休憩することにしました。丁度、綺麗な花畑があったので、そこに腰を下ろしました。
「あー…。タバコうめぇ」
赤ずきんちゃんがメンソール入りのタバコで一服していると、
「面白いことないかなー。地盤沈下でもしたらいいのに」
何やら、物騒なことを呟いているオオカミが、赤ずきんちゃんの傍まで近づいてきました。
「…ん?」
「あ…。ども、すんません。風下に誰かいたなんて気付きませんでした」
赤ずきんちゃんは、胸ポケットから携帯灰皿を取り出し、タバコの火を消しました。
「別にいいよ。…で、何?ここらで見ない顔だけど、名前なんて言うの?」
オオカミは赤ずきんちゃんをまじまじと見ました。まるで、商品の値踏みをするような嫌な目つきです。
──実はこのオオカミ。この辺りで事あるごとに悪さしている、名の知れたオオカミでした。
でも、悪さをするのには理由がありました。
オオカミは、生まれた時から人間のことが大好きでした。いつも、人間と仲良くできたらいいな、と思っていました。
しかし、そんなオオカミの純粋な心は人間には届かず、オオカミというだけで忌み嫌われていたのでした。また、他のオオカミ達からは当然の如く距離を置かれていました。
オオカミは独りで、
オオカミの居場所はどこにもありませんでした。
でも、だからと言ってオオカミは寂しくなんてありません。大好きな人間の、苦痛に歪む顔や悲鳴を聞くことによって、オオカミは満ち足りた気持ちになったような気がしていたのですから。
(本当は満足なんてするはずありません。オオカミは自分の心に嘘をついて、寂しくないフリをしていただけなのでした)
「いや…。知らないオオカミ…まあ知らない人に個人情報洩らしちゃいけないことになってるので」
「ふーん…。まあそれはいいとしてさ。君はなんでここに来たの?」
「も一つ山越えたとこに、これ渡しに行くことになってて」
「あー。おつかいの途中ね」
と、そこでオオカミはピンと、あることを思いつきました。人の良い笑みを浮かべて、赤ずきんちゃんに笑いかけます。
「ね、俺もついて行っていい?一人で行くのもつまんないでしょ?」
オオカミは赤ずきんちゃんにイタズラをしようと考えているようです。赤ずきんちゃんのことを知っている人間からしたら、「何て身の程知らずな奴なんだ」と嘆くことでしょう。
「いいでしょ?ね?」
「いや…いいでしょって言われても…。ここから行って、帰ってくるだけでも日暮れるっすよ」
「いいっていいって。俺、帰ってくるの何時でもいいから」
「…はあ、でも…」
「でも?」
赤ずきんちゃんは、オオカミの顔と西の空を見比べました。
「遅くなったら、待ってるひとが心配しますよ」
赤ずきんちゃんに故意なんてありません。
何て言ったって、このオオカミのことなんてこれっぽちも知らないのですから。
オオカミは、言葉に詰まりました。今までたくさんの罵倒や嘲笑を受けたことはあっても、こんな事を聞かれたのは初めてでしたから。
オオカミは、わけも分からず胸が苦しくなって、俯きました。
「?あの…」
赤ずきんちゃんはそんなオオカミに困ってしまいました。正直、心の中ではなんだコイツと思っていましたが、赤ずきんちゃんは優しいので、それを口に出すことはありませんでした。
赤ずきんちゃんとオオカミとの間に、しばし沈黙が流れました。
そして、その沈黙を破ったのは赤ずきんちゃんの方でした。
「俺、そろそろ行かないと間に合わなくなるんで…。じゃ、そういうことで」
オオカミは、未だ俯いたままです。赤ずきんちゃんは腰を浮かせ、立ち上がりました。そして、オオカミに背を向けようとした、その瞬間です。
「君は、俺のこと好き?」
オオカミが唐突にそんな質問をしてきました。
「は?」
「ねぇ、好き?」
赤ずきんちゃんは頭にはてなマークを浮かべて首を傾げました。(初対面のオオカミにいきなりそんな質問をされるだなんて、思ってもいませんでしたから)
「いや…好きって言われても…」
「好き?」
オオカミは質問を変えません。真っ直ぐな目で赤ずきんちゃんの目を見ていました。
赤ずきんちゃんは返答に困り、頭をかきました。
そして、しばらくの間逡巡したあと、思っていることをそのまま口にしました。
「俺は、アンタのことなんて何一つとして知らない。アンタがどれだけ良い奴か、それともどれだけ悪い奴かなんて、全く。それに、今まで何してきたかも、これから何すんのかも。…そんな何も知らない奴相手に、好きも嫌いもねぇだろ普通」
「……」
オオカミは、瞬き一つせず、赤ずきんちゃんを見据えています。
「だから…なんだ、その。アンタのこと何も知らねぇ俺に、好きだの嫌いだの言う権利なんてねーんだよ」
赤ずきんちゃんはきっぱりと言い切りました。若干、クサイことを言ってしまった感が否めなくて少しだけ恥ずかしくなりましたが、それをオオカミに感づかれないよう軽く咳払いをしました。
「じゃ……。まあ、そんなわけで。俺おつかいの続き行っ」
「俺も行く!」
オオカミが不意に大きな声を出しました。
「その方が、こんなところにいるより何倍も楽しいだろうしね!」
「いや…だから家で待ってるひ」
「男なんだからグチグチ言わないでよ、みっともない!さ、世界の果てを見に行こー」
「行かねぇし、おつかい行くだけだし」
「夢は大きく持たないとつまんないじゃん。器が大きくないともてないよ?」
「…何かアンタと話してたらイライラするな。やっぱ巣に帰れ、ついてくんな」
「クーリングオフの期間はもう過ぎたから無理だよー。どこまでもついてくから」
「最高にうぜぇ……」
並んで歩く赤ずきんちゃんとオオカミの姿は、どんどん小さくなって、いつの間にか見えなくなってしまいました。
赤ずきんちゃんがオオカミの居場所をあげたということに気付くのは、
もう少し先のお話。
急ぎ足じゃ、
ゆっくり世界を見れないから
(ふーん。じゃ、シズちゃんって呼ぶね。シズちゃん、そのバスケットに入ってるアサルトライフルでおつかい行くところ殲滅しよ?)
(シッ…。次、そう呼んだら殺すからな)
*後日談*
「すっかり臨也の奴、うちに居ついちまったな」
「あー…。すんません」
「いや、あやまることじゃねぇよ」
「すんません」
「……。で、つまるところ臨也って静雄の何にあたるんだ?別に変な意味じゃなくて」
「……」
「最初、突然連れてきて『勝手についてきた』って言われてもなー…、って感じだったし。あの時は何も言わなかったけど。まあ正直な話、若気の至りかもとは思ったけど」
「……………。至ってないっすよ」
「えええ何その沈黙。怖いんだけど」
「(そういや初めて会った時、好きがどうとか言ってたなアイツ……)」
「ねー、二人で何話てんの?」
「うっさいノミ蟲。どっか行け」
「(すまん、やっぱお前らの関係性全くわかんねぇわ…)」
**
「おい、ノミ蟲」
「なにシズちゃん。今日こそ死んでくれるとか?あ、この前植えてた毒草が育ったからさ、今度」
「好きだ」
「こっそりシズちゃんのスープに入れてみよっかなーとか考えてたんだけど……。って、え?」
「好きだ」
「え…え、え?何言ってんの。あ、頭おかしくなったとか?この前寝てる時にこっそり注射したクマの血が今になって効いてきたとか!?ええええシズちゃん頭大丈夫!?」
「大丈夫に決まってんだろ。ってかテメェ、人が寝てる時に何やってんだよ…ぶっ殺すぞ」
「だ…だったら…。いや、ちょ、ちょっと待ってよ!そそそんな急に言われたら心の準備ってもんが…」
「心の準備ってなんだよ。
…俺は、テメぇのこと好きとか嫌いとか言える立場になった…と思うから、まあ言っといてやる。そんだけだ。あと、明日までに毒草抜いとけよ」
「……。
は?え、…待ってよシズちゃん!言ってる意味がよく分かんない…ていうか、何!?さっきの俺のトキメキまさかぬか喜び!?ね、待っててばシズちゃーん!!」
end!
(タイトル:
はちみつトースト)
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ミトさんより頂きました!
有難うございます…!!
シズちゃんが男前で男前だし(大事な事は二度言います)、臨也さんはめっちゃくちゃ可愛い!ミトさん、本当に、有難うございますっ!
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