「あっ、あっ!ああ、んっ…!」
俺の上で貪欲に腰を動かす臨也の目には、一体誰が映っているのだろう。
絶え間なく聞こえるのは、留める事を忘れたように零れる喘ぎ声と、結合部がらグチュグチュと響く水音、それから臨也の壊れてしまいそうに早い呼吸の音だ。
「んっ、あ…ああっ、! やっ、たり…ないっ…」
泣きそうな熱い息が耳を擽る。吐息だけではなく、熱過ぎる身体に手を伸ばせば臨也を侵している薬がまるで肌から伝わってくるようだ。脳がゆっくりと、確実に蕩けていく。
「臨也」
俺の声すら届いていないようで、臨也はただ緩慢な仕草で腰を振り続けていた。
身体の内で湧き上がる快楽だけに従順に。例えこの場に居るのが俺でなかったとしても、コイツはこうして腰を振るのだろう。
「あっ、んっ…も、やだぁ…」
臨也を攻めているのは俺であり、厳密に言うならば俺ではない。今この男の頭を溶かしているのは取引相手に盛られたという薬と、それから臨也自身が俺を使って自らを追い詰め続けて得た快楽だ。
「…っ、くそ!」
泣きかけの臨也に締め付けられ、もうこれ以上は無理だと思っていた自身が簡単にいきり立つ。
その反応を直に感じている臨也が、さらに声を荒げ始めるのだから我慢など出来たものではない。
目前の細い腰を掴み、乱暴にその身体を上下させる。体力の限界を迎えかけていた臨也では導けなかった奥を抉るように攻めると、視野に白い喉が仰け反る様子が広がった。何も考えず、衝動のままに噛みつくと、その痛みすら今の臨也は快楽に変えてしまうようだ。淫らな鳴き声が耳に届く。
「んっ、あっ…ああっ!!」
臨也が、もう何度目か数える事すら意味を無くした吐精の後、縋るように唇を寄せてくる。至近距離に迫る顔を避けるような仕草をすれば、一瞬傷付いたように俺を見た。
「しず…ちゃ……っあ…!」
自分の快楽を得る為、臨也を強く突き上げる。臨也が大げさに跳ねあがり、ゴプリという音と共に注いだ精に喘いだ後、糸が切れたようにぐったりと凭れかかってきた。コイツ程ではないにしろ、何度目かの気だるい余韻を味わう身体にはコートしか纏っていない為に見え過ぎる白い肌と所々に広がる噛み跡が目に痛かった。
「はは、もう…サイテー」
疲れ切ったように呟いた臨也に、俺もだよ、と返す事はしなかった。沈黙の方が今のコイツには良いだろう。
「…シズちゃんも、付き合わせて悪かったね。まぁ、俺意外と悪くなかったでしょ?掘られたワケじゃないし、童貞捨てられて良かったじゃん。だからさ、出来たら忘れっ…?!」
ぐだぐたと喋る唇に噛みつけば、驚きで見開かれた瞳が良く見えた。手前、俺がただ流されただけだと今だに思ってるのかよ。
手前と違って、俺は誰でも良かったワケじゃねぇ。
「なん…で?シズちゃん…、ど…して?」
「どうしても何も、そのままだろ」
「だ…って。あんなに、嫌そうだったじゃんか…」
「チッ…。手前、鈍過ぎだろ」
真っ赤な顔で息を荒げながら蹲るのを見捨てられなかったのは、
全力で逃げてきたと強がりながら、笑ったのを見て安心したのは、
我慢が出来ないと乗り上げてきた身体をブン投げなかったのは、
行為の最中、虚ろな瞳でキスを迫ってくる手前から逃げ続けたのは、
何でだと思う?
「やめてよ…シズちゃん……同情なんて、惨めなだけだ」
「手前が、好きだ」
わかりにくいよ、なんて呟いた臨也が倒れ込んでくる。
いつもはやけに甘ったるい匂いがするコイツからは、汗と、砂利の匂いがした。
「………手前、泣いてんのか?」
「…っさい。泣いてなんかいるか、バカ」
ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえたが、まぁこれくらい気付かなかったふりをしても構わない。
薬に侵されて泣くコイツを見るよりは、ずっと良い。泣くのも、喘ぐのも、笑うのも、怒るのも、全部俺が原因なら。
「………シズちゃん」
「あ?」
「俺…、シズちゃんの事…こうなる前からさ…
好きだったんだ、という言葉を、俺は二度目のキスで掻き消した。
そんなの、とっくに知ってンだよ。
残念ながら、ベタ惚れです
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