臨也は昔から、なんというか人より少し変わっていた。
いや、俺が言える事でも無いかもしれないけどな。
「シズちゃん、なにやってるの?」
「……別に」
「まどの外におもしろいものでもあるの?ねぇ、シズちゃん」
「だから、なんも無いって」
8つ下の臨也は、俺の事をふざけた名前で呼ぶ。
何度やめろと言っても聞かないし「だって、かわいい」とか、ニコニコと嬉しそうに言われたら怒る気も失せてしまう。
1年前、臨也は俺の弟になった。
初めて会った時、こいつがあまりにも嘘くさい笑顔をしていたので俺はつい言ってしまったのだ「嘘くせぇ顔」と。
きょとん、とした臨也の顔が俺は今でも忘れられない。
何かを言いたそうに口を開いて、自分の母親と俺の父親の顔をゆっくりと見た臨也は口を閉ざした。悔しそうなその表情は、きっと気を使っていたのだと後から気付いた。自分が言い返したら、母親と、そして新しい父親が悲しむと幼い臨也は考えたのだ。なんてこった。ずっと年下の臨也が気を遣って、俺はそんな事を考えてはいなかった。
それから、俺はせめて臨也にとっていい兄貴になろうと心に決めた。
「シズちゃん、おれも外みたいよ。だっこ」
「はいはい。ほんっと…わがままだな」
「いいんだよ。シズちゃんにしか言わないし」
その通りだった。
臨也は両親に遠慮をしている節がある。
生まれて間もない双子の妹に遠慮しているのかもしれない。
両親を取られたような気持ちになっても、それをうなくいなす事を知っている、俺よりずっと大人かもしれない臨也。ガキらしくなくて、でもこうして甘える姿は間違いなくただのガキだ。
「ほら」
「…ほんとだ、おもしろいものなんてないや」
「だから言ったろ」
「でも、高いね。シズちゃんのめせんだ」
嬉しそうに、嬉しそうに笑う臨也。
この顔を向けるのは、今の所俺だけだ。
もっと沢山笑えばいいのに。
愛されたがっているくせに、頭がいいくせに遠慮する。
でも、あの嘘で造られた笑顔より、いまのコイツは、ずっと良い。
シズちゃん14歳、臨也6歳
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