恋愛鬼坂


時々、そうこれはあくまで特例的な話なのだけれど。

半月に一度、いや一月に一度…いやいや、半年に一度くらいの感覚で俺の感覚機能は麻痺する事があるらしい。その原因について一年近く悩み、葛藤してきた俺だが、この度ようやく、とある推測へと辿りつく事が出来た。

「ノミ蟲?」

突然黙り込んだ俺を不審に思ったのか、シズちゃんが首を傾げる。

俺の心を占めた感情は"カッコ良い"そんな、ありえない言葉だった。

本当にありえない話だと笑うしかないのだが、大嫌いなシズちゃんがカッコ良く見える時がたまにあるのだ。信じられない。この時ばかりは、自分の事が信じられない。

「……おい、どうした?」

「―――っ…!」

あろう事か、シズちゃんの手がおでこに触れた。
その瞬間、顔に血が集まる音がした。なにこれ。

「手前、顔が赤いぞ」

「……るさいっ」

「ああ?!」

ああ、どうしよう。
怒ったシズちゃんすらカッコよく見える。

これは末期だ。間違いない。

「……シズちゃんどうしよう。俺死ぬかも…」

「―――ハァ?」

初めは半年に一度、そのうち月に一度。
最近では半月に一度を越えて、逢う度に。

「シズちゃんがカッコ良く見えるなんて、俺もう病気なんだよ!!」

「…っ?!な、何言ってんだ…!!」

シズちゃんの顔がちょっと赤くなる。ああ、もうバカ!その顔も可愛くてカッコ良いよ!

「―――手前こそ、最近…その、なんか可愛げがあるじゃねぇか」

「はぁ?!どうしたのシズちゃん、目が腐った?」

どうしよう、俺の病気が感染しちゃったのかも。
どうせならシズちゃんに感染した時点で俺の方は完治してくれれば良かったのに…!

「…手前。全部声に出てんだよ」

「出てるんじゃなくて、出してるんですぅ。もう、シズちゃんったらホント馬鹿だよねぇ」

「うぜぇ。やっぱ手前、本気でうぜぇ…!!」

「――もう良いから、喧嘩しようよシズちゃん」

そんで、君がカッコ良く見える俺をどこかに吹き飛ばして欲しい。

「…上等だ。覚悟しろや、臨也くんよぉ」

ほんっとマズイ。
声までカッコ良く思えてきた。

「もうヤダ、泣きたい…。ばかシズちゃん…」

なんでそんなカッコ良いの…。

「ああ?!」

心が折れそうになりながらもナイフをかざせば、シズちゃんはいつもと同じ顔で笑う。いいね、シンプルな所だけは実にいい。

どうせ俺たちには喧嘩が一番似合うんだ。俺はそれを知っている。頭の悪い君も、勿論知っているだろうね。


ならば結局の所、この病は屠るしかないのだ。
麻痺した心が痛もうが、気のせいだと蓋をしながら。






(恋は恐ろしい病気)





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