禁忌という名の

禁忌という名の


その結末を誰も知らない。
何故ならそれは、あってはならない寓話に過ぎないから。


[オランスは賛美歌に踊る]


疾うに懐かしい記憶になる、一族の仲間達の中でも一際長命だった爺やが話してくれた事だ。眠りに就く前に何度も聞かされた、それは神に愛された少女達と、彼女達を守る為に騎士になったという魔物達の話だった。
まものはおとめをまもり、おとめはかみにいのりをささげせかいをまわす。俺の一番好きだった部分、そして幼い俺は夢見ていた、乙女の騎士となる日を。夢見ていた。
まだこの国が王国として統治される以前の、混沌とした争いの時代、騎士は祈りを捧ぐ乙女の盾となり剣となり戦場を駆けたのだという。話を聞かされて育った俺達一族の子供は皆その末裔になりたがった。それは憧憬だったのかも知れない。
だが、と、声を低くした爺やはそうして怖いくらいに真剣な眼差しで俺を見ながら、話を続けるのだ。俺は息を飲み、息を殺して耳をそばだてて聞いたものだった。
それはしてはならない過ちを犯した者達の話だった。
ひとりは神へ呪いの言葉を向けたという乙女。
ひとりは乙女を連れて城から逃げ出したという騎士。
そして最後のひとりは、乙女をその手で殺害したという騎士だった。
それらは決してしてはならない事だった、神を裏切る事は決して許されないのだ、決して。そう俺に言い聞かせる爺やの、何処か何かに怯えたようなあの表情は今でも忘れられない。この話と共に。
ああ、けれど思い出せない。あやまちをおかしたまものとおとめたちはどうなったの、そう訊ねた俺に与えられた答えは何だっただろう。



答えはそう、無かったのだ。罪深き者達による物語の結末は、存在しなかった。
それは犯す事の許されない過ち、誰も神を裏切ってはならない。禁忌だった。
禁忌を破った者達に与えられる終焉の在処を、知る者などいないのだ。



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