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阿呆らしい、馬鹿馬鹿しい
「あー、もうほんっとにダルい」

気だるげに呟いた言葉は隣で胡座をかいているチカちゃんの耳に入ることすら無く、頭が痛くなる程の声援の中に消えた。
夏なんてとっくに終わったのに、男だらけが密集した体育館は真夏なんじゃないかと思うくらいに暑くて、汗はダラダラで背中に貼り付いた体育着がとても気持ち悪い。
体育着を摘まんでパタパタと生ぬるい風を送ってみるけど大した効果は無かった。
ムンムンと漂う熱気も男しかいないむさ苦しさも塩辛い汗臭さも、本当にダルい。
あぁ、何故球技大会なんてものがあるのだろう。
体育祭があるんだからそれだけで十分でしょうが、と思うのは俺様だけではない筈だ。

少しばかり運動神経が良いと理由で俺様は4つ競技があるうちのバレーとサッカーの2つの競技を掛け持ちしなきゃならないし、本当にうんざり。
しかもどっちも一回戦で負けちゃうし、いいとこ無しだった俺様は不貞腐れていた。
チカちゃんはドンマイなんて言葉を掛けてくれたけど、今の今まで俺様は拗ねたまんまだった。
チカちゃんは惜しかったなぁとか言ってくれたけど、伊達ちゃん曰く一回戦で負けちまった方が楽だろ、だそうだ。
まぁ、そりゃそうなんだけどさ、少しだけでもいいから伊達ちゃんにカッコいいとこ見せたかったんだよ、ホントは。

俺様が惨敗した一方で伊達ちゃんは面倒だとか言いながら、ちゃっかりバスケの決勝に勝ち残っていた。
勝利の女神は全くもって不公平だと思った。

俺様とチカちゃんはもう試合が残ってないから、暇潰しと冷やかしにと伊達ちゃんが出る決勝戦を今こうして体育館まで見に来てる訳なんだけど…

「目に毒ってコレのことだよねぇ」

「生殺しってやつもコレを言うんじゃねぇのか?」

俺様たちは試合どころじゃあなかった。

レイアップをする時にちらつくお腹とか、汗で額に貼り付く前髪だとか、上気してほんのり赤く染まる頬だとか。
試合をする伊達ちゃんの姿に釘付けだった。
そりゃあもう、同性だとか関係無しに色っぽくて欲情してしまう。
ついでに自分のいいように伊達ちゃんの姿を重ねて妄想し始める始末だ。
もし此処に旦那が居たら、破廉恥でござるって叫びながら鼻血を噴出させて卒倒するに違いないだろう。
そんな下らないことを考えながら俺様の妄想はどんどん下品な方向に進んでいく。

試合が終わった後そのまま体育倉庫で押し倒したらどんな反応をするだろう。
それともシャワーを浴びてる伊達ちゃんをシャワー室でそのままっていうのもいいかもしれない…

そこまで考えて、どうも自分が惨めになってきた。
ブンブンと頭を振って下品な思考を切り換えようとする。
ふとチカちゃんを見ると彼も同じことを考えてるらしく、厭らしい目付きで伊達ちゃんを見ているのを自制しようとポカポカと自分の頭を殴っている。

あー、ホントに馬鹿馬鹿しい。
自分の思考も、球技大会も。
また大した効果は得られないと知りつつ、やらないよりはマシだと体操着をパタパタと扇ぐ。
ぼんやりと、耳の奥で試合終了を告げる笛の音が震えた。


あきゅろす。
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