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屋上でお待ちしています
「…ホントにアンタはchickenだな」

呆れてる様子の政宗が煙草の煙を吐き出しながらぶっきらぼうに言葉も吐き出した。
白い煙も紡がれた言の葉も、青い空に融けて消えた。
肩を竦めてみたが、政宗はフンと鼻を鳴らしたきり此方を見てくれなかった。
愛想を尽かせてしまったらしかった。

半兵衛と喧嘩して、仲直りしたいのに中々自分からは謝れなくて、佐助と政宗に相談したのはいいけれど。
どれだけ佐助に謝罪の言葉を教えてもらっても、どれだけ政宗に背を押されても、やっぱり俺は半兵衛に謝る勇気が出なかった。
謝らなきゃ始まらないというのは分かってる。
ただ、もし許してくれなかったら、もし拒絶されてしまったら…
そういう思考が頭を占領して、屋上から離れることが出来なかった。

政宗が呆れるのも愛想尽かせるのも仕方無いことだった。

「ははっ…言い訳する余地もねぇや」

がしがしと乱暴に頭を掻いて空を仰いでみるけれど、政宗は完全無視だった。

まるで、昨日の半兵衛だ。

昨日の半兵衛は廊下で擦れ違おうが、トイレでばったり出会しても無視だった。
挙げ句の果てに昼休みは元就と一緒に過ごしたらしい。
冗談じゃない。
元親曰く半兵衛は元就のお気に入りなんだとか。
このままいったら、俺フラれて半兵衛は元就と付き合いだしちゃうんじゃねぇかって、いらぬ心配までしちまう始末。
俺は半兵衛が居なければ何にも出来やしない。
こんなにも依存しているだなんて思っていなかった。

今日は半兵衛と喧嘩した、きっと運勢は大凶なんだろう、なんて割り切れない。
今まで恋だ何だと騒いでいたのに、自分は本当の恋も知らないでいたんだ。

こんなにも幼稚で、餓鬼な俺に半兵衛や政宗が愛想を尽かすのは当たり前なんだと、身に染みて感じた。
冬の寒空を見上げて、自分の浅はかさを痛い程に感じていた。


ギィと屋上の扉空く乾いた軋む音が聞こえ、大方佐助が戻ってきたんだろうと思った。
だからと言って、これ以上慰めの言葉は要らなかったし、小言も聞きたくなかった。
それに佐助の目に哀れみの色が孕んでいたら…と思うと音のした方に振り返ることが出来なかった。

背後に人の気配を感じつつ、息を吸う音が聞こえた。
何か言われる。
そう思って反射的に身構える。

「慶次君、」

降ってきたのは、佐助の慰めでも小言でも無く、ずっと聞き焦がれていた声だった。

「半兵衛…」

急いで振り返って視界に映った姿に思わず縋りたくなって手を伸ばそうとしたけれど、何故か手は震えて動くことは無かった。
多分、拒絶されることを恐れているから手が動かないのだと思った。

だから、半兵衛の口が開いてもそこからは俺に対する拒絶の言の葉が紡がれるような気がした。
半兵衛はまだ何も言葉を発していないのに、涙が出そうになった。
半兵衛のことになると、俺はこんなにも脆い。
半兵衛をこんなにも好きだ。
喧嘩をしなきゃそんなことにも気付けない程、俺は阿呆だ。

自分が情けなくて半兵衛に向ける顔も無くて俯く。
半兵衛がしゃがみこむような気配がした。
くいと顎を掴まれて上を向かされ半兵衛と視線を交わる。
あぁ、殴られたり平手打ちされたりするのかな、とぼんやり思った。

「慶次君、何でそんなに泣きそうな顔をしているんだい?」

やっぱり俺は阿呆だったらしい。
俺の顔を覗き込む半兵衛の表情は心配そうだった。

「まだ喧嘩のことを気にしているのかい?僕はもう君のことを怒ってはいないよ。……慶次君、すまなかった」

優しく背中を擦るような柔らかい声が、心地よく耳に伝わった。
その言の葉が有する意味を感じ取った時に、俺は半兵衛に手を伸ばしていた。
白銀のふわふわした髪と小さい頭を掻き抱き、肩口に顔を埋めて半兵衛の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

俺はこのぬくもりを待ち望んでいた。


「ごめん、半兵衛」

自分が思っていたよりも簡単にするりと謝罪の言葉が口から滑り落ちる。
ぎゅっと腕に力を込めて、半兵衛を抱き締める。
小さく、痛いよと抗議の声が聞こえたが無視をした。
二人分の盛大な溜め息が聞こえたがそれも無視をした。






(世話が焼けンだよ、コイツ等は)
(ホントだよねぇー俺様達を見習ってもっとラブラブすればいいのに)
(……………)
(え、伊達ちゃん?え、ちょ、何殴り掛かってきてんの?ちょ、タンマ!)


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