[携帯モード] [URL送信]
屋上でお逢いしましょう
「はんべちゃん、はんべちゃん、今暇?」

今暇かという問いは全く持って愚問だ。
元就君から半ば無理矢理押し付けられた(しかし僕も自ら進んで受け取った)生徒会の書類の処理を今から始めようと、机に資料を広げてペンまで握っている。
今暇でないことは明白だ。
しかし目の前の彼は人懐っこい笑みを湛えて平然とその問いを口にした。

思わず眉を寄せて顔を顰めてしまうのも仕方の無いことだ。
勿論、呆れて溜め息を零したとしてもだ。

「はんべちゃん何なのその顔ー、あ、溜め息は幸せが逃げちゃうんだよー」

だから文句を言われる筋合いは無い。

「だからアンタ慶次と…」

「佐助君、その話止めてくれないかな」

幸せが何とかという言葉は無視して話を遮る。
今、話を遮らないとどこまで話が脱線するか分からない。
口から生まれたんじゃないかと思われる彼の饒舌さは、流石にあの煩い慶次君も舌を巻く程だ。

それに、今その話を持ち込む空気じゃないだろう、確実に。
目の前の彼は空気が読める人だろう、少なくとも慶次君よりは。
だからきっと確信犯だ。
そう思ってちらりと睨んでみれば、にこりと笑みを向けられた。

「佐助君、君は今僕が暇かどうか尋ねに来たんじゃないのかい?」

「そうそう、だから一緒についてきてよ」

ぐいと、細い手で腕を掴まれ引っ張られる。
思っていたよりずっと強い力で引かれ、されるがままに椅子から立ち上がる。

「ちょ、ちょっと…一体、何処へ連れて行こうって言うんだい」

別にあの作業を中断して佐助君に付き合うことは構わない。
しかし何処へ連れていかれるのかという不安に駆られ思わず顔を顰める。
まず、無理矢理連れ出そうとする行為そのものも気に入らない。
理由も知らされず、行先も知らされずにされるがまま連れていかれる程僕は間抜けではない。
だからそれ以上引き摺られないように足に力を入れて踏ん張りながら尋ねた。

目の前の佐助君は如何にも僕のその行動がおかしいと言った様子で笑った。
笑いながら天井を指差し、行先を告げた。

「屋上だよ、はんべちゃん」

行先を告げられ、何となく何故僕がわざわざそこへ赴かなければ行けないのかが分かった。

「仲直りしろ、ということなのかい?」

溜め息混じりに尋ねた。
でも答えを待たずに僕は階段へと足を踏み出していた。
背後で佐助君が苦笑しているのを感じ取った。


一昨日、僕は慶次君と喧嘩をした。
理由はよく覚えていない。
何が発端だったか、言い争いになり互いに罵り合い、その場にあったものを投げつけた(僕が一方的にだったけれど)。
結局、昨日は一言も口を聞かず、目も合わさずに過ごした。
いつもなら一緒に昼食を摂る昼休みも、一人で図書室に行った(その時元就君に会って生徒会の仕事を引き受けたのだ)。

僕は意地を張って自分から謝るなんてことする筈も無く、慶次君もまた僕と同様に自ら謝ることは無い。
でも、慶次君が喧嘩のことを後悔し謝ろうと思っているだろうな、というのは容易く想像できた。

つまり、多分慶次君は屋上で政宗君と佐助君にだらだらと相談でもしていたのだろう。
どうしたら僕と仲直りできるのか、と。
ああ見えて慶次君はヘタレで意外と行動的ではない(エンジンがかかってしまえば猪突猛進なのだけれど、エンジンがかかるまでが中々時間が掛かるのだ)。
きっと、政宗君が謝れとアドバイスしたところで慶次君はそれを行動に移さないだろう。
だから埒があかないと思った佐助君は僕を呼びに来たという訳だ。



「流石、はんべちゃん。分かってるじゃない」

佐助君が笑いながら、僕の背を押した。
あと一歩踏み出せばそこはもう屋上だ。
政宗君と慶次君がいるであろう屋上。

きゅっと唇を引き締めて、足を踏み出した。


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!