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聖夜を祝いませう※自殺

がしゃん、がしゃん
音を立てて揺れるフェンス。
それでも、エメラルドグリーンに塗装されたそれは壊れないし、それを乗り越えて空を飛ぶことは許されなかった。
羽をもがれた鳥が飛べないように、足をもがれた俺もまた飛べなかった。
空を飛んで、真っ逆さまに地に落ちれば俺は秀吉のところに行けるのに。
一人ではなくなるのに。

冬の刺すような冷たい風に吹かれて、フェンスを掴んだ手は悴んで痛かった。
病院の屋上から見下ろす街はキラキラと輝き、玩具のようだった。
自分の陰鬱さと対象的な明るさに苛立ちを感じて、またフェンスを揺らした。
よく目を凝らせば、街に散らばる光が赤と緑ばかりなことに気付き、この時期になると決まってかかるあの曲が耳に届き、漸く今日という日の意味に気付く。

「あぁ、今日はクリスマスか」

呟いた言の葉は白い息となって冬の空気に融けて消えた。
虚しい、寂しい、虚無感とでも言うのだろうかそのような感情に侵される。


俺は、生きていたいのか?
死にたいのか?


事故に遭って秀吉は死んだ。
半兵衛は植物状態。
俺は、両足切断。

生きていても、此処に秀吉はいない。
半兵衛もいない。

俺は、一人孤独で生きていた。

誰かは言った。
秀吉の分も生きてやれ。
誰かは言った。
半兵衛が目を覚ました時側にいてやれ。

でも秀吉はそんな義理立てをしてほしくないだろうし、半兵衛はもうきっと目を覚まさない。
秀吉も半兵衛も一緒に、もうずっと遠い所で俺を待っているのだ。


ぷつり、とカッターナイフで切った傷口から血が、真っ赤な真っ赤な血が滲み出す。

あぁ、クリスマスの色。
エメラルドグリーンのフェンスと、手首から滴る真っ赤な血がクリスマスの聖夜を彩る。




半兵衛の生命維持装置のスイッチは切った。
きっと、もう息をしていない。
秀吉との写真は鋏で切った。
きっと、もう誰もこの世界で二度と秀吉の笑顔を見れない。




一緒に心中しませう。
この美しい聖夜に、さぁ。


あきゅろす。
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