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拝啓、※死ネタ

『何と書けばいいのか、分からない。でも兎に角礼だけは伝えたい。感謝しているよ、有難う。秀吉の事頼むね、いや寧ろ慶次君の世話を秀吉がするのかな。くれぐれも女の子の尻ばかり追い掛けてるんじゃないよ?ちゃんと就職して、ちゃんと働いて、ちゃんと生きるんだよ。少しだけ心配だけど、きっと君なら出来るから僕の分まで一生懸命一日一日を生きて。最後に有難う、さようなら』

美しい、整った、角ばった、硬筆の教科書の字体みたいな文字が淡い紫色の便箋の上に綴られている。
その便箋を三つ折にして入れてあったやはり紫色の封筒には、俺の名前が書かれている。
同じく、アイツの綺麗な綺麗な字で。
あの青白くて細い手が握ったペンで綴られたのだと思うと、便箋の上できちんと並ぶ文字が愛おしくて堪らなかった。

人生最初で最後のアイツからの手紙だ。
書き始めから「何と書けばいいのか、分からない」だなんて、これ以上滑稽な手紙は無いんじゃないだろうか。
でも、そんな矛盾したところもとても愛おしいのだけれど。
アイツは手紙を書くのが苦手なのかもしれないな、と苦笑を零す。
あんなにも神経質で几帳面で器用なアイツでも苦手なことがあったんだ、と今更になって気づく。
本当に今更だ。

はらり、と便箋の上に涙が落ちて濃い紫色の染みを作る。
それと同時にアイツが書いた綺麗な字が滲んでいく。
勿体無いとは違う空虚感に近い何か焦燥に駆られる気持ちになって、もう涙を零すまいとぐっと奥歯を噛み締めてみたけれど、ぼたぼたと遠慮なく涙は溢れた。
その涙はまた便箋に落ちて染みを作り、字を滲ませる。
インクの黒と淡い紫と濃い紫のコントラストが目に痛い。


あきゅろす。
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