プレイボーイの純情
好きだ、なんて
そんな単純な言葉すら口に出来ないだなんて思わなかったんだよ。
口を開けばカッサカサに乾いた唇は痙攣とかそういう次元を超えてるんじゃないかって位に小刻みに震えるし、喉の奥という奥までカラカラに渇いてて声なんか出やしない。
心臓は尋常じゃない速さで脈打ってるし、なんかどうしようもなく涙が込み上げてきて目の前が霞んでくる。
そんな、まさか、おかしいじゃない。
す き だ
そのたった三文字ですら紡げないだなんて。
この百戦錬磨(勿論、悪い意味で)と言われた俺様が、たった一人の男に想いを告げることすら出来ないだなんて。
何度も何度も自分が逆の立場だったことは経験してるけど、実際自分がこっち側になってみると半端無い極度の緊張と意味わかんないくらい切ないんだね、コレ。
女の子が泣きそうなくらい必死になって想いを告げるのを、今までは正直下らないと思ってた。
泣くなんて馬鹿じゃない?って拵えた笑みの下で思ってた。
でも、今気付いた。
告白って、とてつもなく苦しいものなんだと。
きっと、ポニーテールの能天気で楽観的な快楽主義者はこの現象を恋と言うのだろう。
とつまらぬことを頭の隅っこで考えながら、どうすることも出来ずに立ち尽くした。
俺様の無様な姿を見てきょとんとしている伊達ちゃんは、どうしたらいいか分からなくて困ってるみたいだった。
潤んで霞んだ世界に映る戸惑うアンタの姿は酷く扇情的だ、なんてもう末期だなぁ…。
「Hey猿飛、用がないなら俺は帰るぜ」
そんなことぐだぐだ考えてれば、伊達ちゃんは呆れて帰宅しようと踵を返した。
慌てて手を伸ばして、伊達ちゃんの制服の裾を掴んで何とか帰宅を阻んだ。
俺様に引き留められ、振り返った伊達ちゃんは明らかに困った顔で肩を竦めた。
「Ah―…用があるなら、さっさと済ませてくれよ」
「あ、あのね伊達ちゃん、」
漸く口から零れ落ちた声は、自分自身が驚くほどにガラガラで緊張のあまり裏返ってしまった。
その声を聞いた伊達ちゃんは少しだけ目を見開いた。
やっぱり俺様の酷い声にちょっと吃驚したみたい。
それでも俺様は言うからね!
(好きだよ、伊達ちゃんがこの世界の誰よりも)
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