05.荊姫・中編 「緋色の髪の女?」 「あぁ、『反逆者の娘』だろ?」 「父親が陛下の命令に背いて、殺されたのでしょ?」 「上官達も『あれ』の扱いに困ってるらしーぜ。」 「何で騎士になんてなったんだ?」 「いい迷惑だよ。」 「お母様が『あの女』には関わるなって、おっしゃっていたの。」 「お前、知らなかったのか?」 --------知らなかった。 帝都(特に城の中)の女性に関する情報は、全て把握していると思っていた。 しかもそんな曰く付きな女、何で今まで知らなかったんだ? 「お前、帝都の出身じゃないだろ?」 「帝都じゃ有名な話なのよ?」 「有名すぎて、誰も口にしないからな。」 そういう事か。 当たり前すぎて誰も教えてくれなったと。 「あまり関わり合いにならない方がいいわよ。」 「お前、女なら誰でもいいのか?」 そう言う訳じゃなんだが・・・・。 なんだろう。 彼女の事がとても気になった。 「何。私に用でもあるの?」 思い立ったら即行動、が俺の座右の銘だったりする訳で。 他人の噂話に飽きた俺は、直接本人と対面し、どんな女なのか確かめる為、張り込みをし彼女を待ち伏せして声をかけた。 「チョット、お茶でも飲みながらお話しないかと思ってさ。」 「聞きたい事、言いたい事があるならこの場でお願いします。」 この頃の姫君はとてもツンケン・・・棘々してたと言いますか・・・社交的じゃなかったと言いますか・・・扱いづらい女だった。 「この間、深夜裏庭で襲われてた女を助けたの、あんただろ?」 何とか彼女の気を引きつけようと、唯一の接点である、あの出来事の話題を持ち出してみる。 案の定、彼女は驚きの表情を見せ、興味もなさげだった瞳がはっきりと俺を見据えた。 「実は、俺あの時あの場にいて・・・」 「あの男の仲間か何か?」 「違うって!何でそうなるんだよ。」 「だって、あなたあの場にいて何をしていたの?彼女を助けもしないで?見ていただけ?そんなの、あの愚者と同罪だわ。」 はっきり言うな・・・。 憎むべき敵を見るような目で、俺を一瞥すると何も言わずに俺の横を通り過ぎて行った。 「だから言ったでしょ?」 「あの女変わってるのよ。」 「それよりさ、今日は何して遊ぶ?」 「悪い、今日は帰る。」 その夜、酒場に来ていた俺は、まとわり付く女の腕をすり抜け、大人しく寄宿舎へと帰った。 夜空を見上げれば、あの日から少し欠けた満月が俺を見下ろしていた。 「愚者・・・バカ・・・か。」 女にあんな暴言を吐かれたのは初めてだった。 まぁ・・・サイテーとか、ヘンターイとかはあったような気もしなくもないが・・・。 けっして軽くはない気持ちを引きずりながら、俺は城の門まで辿り着き、警備兵に一礼を軽くし、トボトボと部屋へ歩いた。 つもり、だったんだが、気付けばあの日迷い込んだ裏庭へとまた迷い込んでいた。 「ココにはあまりいい思い出はないんだけどなぁ・・・。」 そしてまたまた仕方がない、と俺は適当に地べたに座り星空を眺めようとした。 「もう就寝時間よ。あなたはココで何をしているの?」 「そう言うお嬢さんもココで何をされているのですか?」 聞き覚えのある声に話しかけられ、俺は驚きよりも嬉しさで顔が緩むのがわかる。 振り向けば期待通り、緋色の髪の騎士様が座り込む俺を見下ろしていた。 「私は独自に見回りをしているのよ。あなたみたいな不埒な輩をほってはおけませんので。」 「勤務外に?生真面目なんだな。」 「騎士とはそういうものでしょ。」 そうか? 少なくとも俺は金が目的というか・・・騎士になると言っても高い志のもと集うものは少ないと、俺は思っている。 彼女は『そう』なのか。 彼女の事が知りたい。 何を感じ、何を思っているのか。 それを知るには、傍に居ることが一番だ。 「なぁ、俺もその見回りに同行してもいいか?」 思い立ったら即行動、それが俺の座右の銘だからな。 ←→ |