02.副官の憂鬱
皆様お初にお目にかかります。
私は、帝国騎士所属『ミレイナ・ジュレ』と申します。
僭越ながら、我が小隊長、ヴィンセント・フルールに代わり、代筆させて頂きます。
と言うか・・・・あの男、「代筆求む」とか意味不明な書置きを残して、何処に言ったというの!
どうせ、また何処の馬の骨ともわからない尻軽女を追いかけて、ウロウロ城の周りや、市民街を徘徊してるに違いないっ!!
何で私があの、タラシで、バカで、アホで、ろくでなしのあのっ男の代わりに全ての仕事をこなさないといけないのっっ!!!
彼の机を見れば、未処理の書類が山のように積まれている。
あぁぁああああ〜〜〜〜っっ!!!
「もうっ!!イライラするっ!!!」
と、申し訳ありません。
あまりの怒りに取り乱してしまいました。
何せ、朝出勤してみれば、机の上に見たこともない冊子が置かれてまして、さらにその上に使えないアホ上司が書き残したと思われる意味不明なメモが置かれ、さらにさらに、とうの本人は姿をくらまし勤務時間2時間過ぎても現れないというありさま・・・・。
これを怒らずして何にキレろと言うのでしょう。
中を開けば、どうしようもないアホ上司の伝書だか何だかわからないつたない文章が書かれてるし・・・・しかもまだ1ページしか書かれてない・・・・。
何故、隊長はあの男にこんな仕事を任せたのか。
こういう地味な作業は、生真面目で、几帳面で、面白みのないエリオット殿に任せればいいのに・・・・。
と、少し言葉が過ぎましたね。
「ミレイナ、どうしたんだい?そんな怖い顔して。」
噂をすれば影・・・・アホ上司を探しに部屋を出てみれば、バカ上司のお友達、エリオット・ミュッセと出合った。
「小隊長を存知あげませんか?」
「ヴィンセント?確か・・・・ハンスさんにこの突き当りで捕まってたような。」
リュイ・リィ・ハインス。
我が隊で参謀を務める年齢不詳のメガネ男・・・・。
「わかりました。ありがとうございます。」
正直、私はこの男が苦手だった。
何故なら・・・・。
「これは、ミレイナ。またヴィンセントに逃げられたのですか?あれ程手綱をしっかり握れと言ったでしょ?」
いちいち感に触る物言いをしてくるからだ。
「お疲れ様です、ハンス様。あの暴れ馬は私ごときの綱さばきでは、到底大人しくさせるのは困難でして。」
「あなたは彼の副官でしょ?しっかりしてくださいね。」
「・・・・・申し訳ございません。」
言われなくともわかってますからっ!!
って言うか好きであの男の副官やってるワケじゃないのよっ!!!
いちいち私がムカつく事を言わないで欲しいっ!!
「そうそう、ヴィンセントなら隊長の執務室に向かいましたよ。」
「!?」
我が隊の隊長は、美しい緋色の髪を持つ女性である。
今の私と同じ、19の歳に隊長職を任命され、今日まで一癖も、二癖もあるこの隊をまとめている。
私にとって、憧れの存在であり、隊の皆からも慕われている。
それはもちろん・・・・あのバカ上司とて同じ事。
でも・・・・少し違うような気がする。
彼の隊長への想いは、憧れとか、そんな生ぬるい感情ではなく・・・・。
「よ。ミレイナ何処に行ってたんだ?」
これ以上の捜索はイタチごっこになるだけだと考え、仕事場へと戻ってみれば、今の今まで探していたアホ上司が私の席に座り、優雅に紅茶を飲んでいた。
「・・・・・散歩です。」
探していたなんて、口が裂けても絶対言わない。
言った瞬間に、負けを認めるたようなもの。
「有意義な散歩ができたか?それより、俺の机にあった書類、全部片付けたから確認を頼む。」
「はぁ!?あの山積みの・・・・ですか?」
「お前が居なくて暇だったからな。」
それではまるで、私が居ないほうが仕事がはかどるって言ってるようなものなんですけど。
「それを確認が済んだら、昼食でも一緒にどうだ?せっかくだから市民街にあるレストランにでも行かないか?」
「結構です。」
「俺はお前と二人で昼食をとりたいんだが・・・・嫌か?」
タラシで、バカで、アホで、ろくでなしで、勤務時間内にナンパはするわ、出勤時間は守らないわ・・・・本当にどうしようもない上司だけど・・・・。
「もちろん、奢りですよね。」
彼の瞳に見つめられると、どうしてか、言う事を聞いてしまう。
この時点で私は、彼の手中に完全にはまってしまっている・・・・と思う。
この想いが、けっして叶うものではないとしても・・・・。
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