ねぇ、知ってる? [ルッチ] 薄暗い、エニエスロビーの牢屋の中。海楼石の重い手錠があたしの手首に赤い痕を残す。 「ルッチ、」 あたしはCP9の一員だ。昔から、皆と一緒に暗殺や戦闘、スパイの訓練をしてきた。戦いのノウハウはほとんど幼少期に学んだ。悪魔の実も食べた。 人を殺すために存在するようなあたし達。任務のためなら仁義も心も捨てる。それが、あたし達CP9だ。 「ルッチ、……それに皆。」 ルッチはあたしの恋人だ。あたしはルッチを愛している。でも、ルッチはあたしを愛していない。だから、恋人などというのは名ばかりなのだ。ルッチにとってあたしは、その辺で股を開いている女と差してかわらないのだろう。まあ、実際そうなのだから仕方ないが。 「裏切ったな。」 ルッチの低い声が地を這う。 「そうだね、裏切った。ごめんなさい。」 「…どうしてっ!!!」 カリファが悔しそうに此方を見据える。 「だって、」 だって、あんなによくしてくれたアイスバーグさんを裏切るなんて、そんな事出来るわけないじゃない。あたしは、裏切れなかったの。あたしの心に残っていた、少しの良心がそれを許さなかった。皆にだって心くらいはあるでしょ?だから、あたしはアイスバーグさんを逃がしたの。まあ、簡単に言えば、情がうつったの。 「言いたいことは、それだけか。」 「うん。」 「…自分のやったことの責任の重さを分かってるのか?」 「うん。」 「では、俺たちがこうして、お前の目の前にわざわざ現れたわけも分かるな?」 「うん。」 今、エニエスロビーには麦わら海賊団やフランキー一味が一気に押し寄せてきている。しかも、麦わら海賊団が世界政府に喧嘩を売ったらしい。 そんな時に、あたしのような裏切り者を腹に抱えたままじゃ、安心して戦えないのだろう(特に長官が)。 裏切り者のあたしを一刻も早く処分しておきたいのだということくらい、すぐに分かる。 「こいつを連れていけ。」 ルッチが命じると、一般兵が牢屋の鍵を開け、あたしを立たせた。 そのまま、引っ張りだされたあたしは、ちょうど正義の門が霞んで見える崖っぷちに連れてこられた。 (ああ、この近くに死体を埋めたことがある。) まあ、つまり。あたしを処分するにしても、後片付けが楽な所で、なるべく手間をかけずにしろ、と言う長官の考えだろう。 ルッチ達は、少し離れた所から此方を見ている。 (あーあ、もうすぐ皆とお別れか…。呆気ない人生。) 一般兵があたしの頭に銃を押しあてる。 (銃で頭ぶち抜かれたら、あたしの顔、ぐしゃぐしゃになるよね。) 安全装置を外す音が聞こえる。 (ルッチには、あたしの汚い姿は見せたくないなー。最後なんだし…) 「言い残すことはないか。」 「言い残すこと?んー…、ルッチ、愛している!」 あ、ルッチが嫌そうな顔した。 「…それじゃあ、皆さん……バイバイ。」 皆の驚いた顔を見てから、あたしは人生で最後となる"剃"を使って、崖から飛び下りた。 ドボーーーン!!!!!!!! 身体はどんどん沈んでいく。海水があたしの身体にまとわりついて離さない錯覚に陥った。 あたしは今まで、正義のために人を殺してきた。正義の名のもとに、親類を殺したこともある。でも、それは本当に正しいのだろうか?人を殺すことに、正義も悪もないのではないだろうか?もしかして、あたし達が、悪なのではないだろうか? そんな疑問さえも、どうでもよくなってきた。ああ、とうとうあたしも死ぬのか。酸素が足りない。 争いの絶えない世界。そんな世界の闇の、暗い部分しか見てこなかった、あたし達。 ねぇ、ルッチ。知ってる? 海の底から見た世界はね、驚くほどきれいなんだ 綺麗な景色。あたしは初めて、生まれてきて良かった、と思った。 20100413 ・・・・・・・・・・・・・ 声様にお題提出! 乱文失礼いたしました。 気に入っていただければ さいわいです\^^/ |