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幽霊なんか怖くない



ヒュォォオオ〜


くじら船に生暖かい風が吹く


「その時誰もいないはずの倉庫から物音がしてな…」

エースは小さな声で言った

ゴクリ

「オレは思わず扉を開けちまったんだ…!」

「………あ、開けたら?」

向かいに座るニキが身をのりだす

「開けたらそこには髪の長い白い服を着た女が…!!!!!」

「ギャーーーー!!!!!!」

「黙れ」

ゴツーン!!

鉄拳炸裂

「ってェー!!!サッチィィイイイ!!!」

「うるせェなァ……なんでそんなに微々ってんだお前は…やっぱまだガキだな」

「ガキじゃねェーーー!!!」


満月の夜の11時半


月の明かりが船を照らしている

見張り当番以外の船員たちはすでに各自の部屋にもどっており、くじら船は静まり返っていた

時々笑い声や足音がかすかに聞こえてくるが、すぐに静寂に飲み込まれ消えていってしまう

そんな中、深夜だというのに甲板には隊長たち6人と少女が1人がいた

隊長たち6人とはマルコ、エース、ジョズ、サッチ、クリエル、ハルタのことであり、少女1人とはニキのことである

5人はすでに風呂に入っているのかもうパジャマ姿だった

基本的にTシャツにラクな布製ズボンという格好の隊長たち

マルコやサッチにいたっては髪が濡れていていつものようにボリュームがなく、すべて垂れていた

ニキはといえば、お気に入りであるサイズ大きめのモノクロボーダーパジャマという姿

7人はいつも親父の座っている椅子の前に円になって座っていた

「じゃあ次はジョズの番だ」

エースは隣にいるジョズの肩をトンと叩く

「オレはそんな幽霊話は知らねェぞ…」

ジョズは申し訳なさそうに言った

「なら作れ。オレを早く怖がらせてくれ」

「なっ、クリエル!!オレの話じゃ怖がれねェってことか!!?………まァジョズ…何でもいいぜ?怖いやつなら」

「だったら………」

そう言うとジョズは座り直した

そして咳払いをしみんなを見渡す

「この前の晩のことなんだがな……」

「ギャーーーー!!!」

「まだなんにも話してねェだろい」

ゴツーン!!!

再び鉄拳炸裂

しかし今度はサッチではなく

「マ、マルコォォオオオ!!!」

マルコだった

うるせェよい

マルコはため息をつく

「だいたい…そんなに怖いならこんなことしようなんて言うんじゃねェよい」

「言えてるな」

サッチは頷いた

「もう初めて一時間経つけどよォ…お前マジで震えっぱなしだろ」

「別にニキはガキじゃねェから怖くないもん!!!!」

「強がりやがって」

サッチ苦笑いし、横に置いていた酒の瓶を手に取る

「寝れなくなっても俺ァ知らねェからな」

「心配無用!!寝れるんだ!!!」

「うぜェ」

隊長たちが一斉に言った

「続きを言っていいか?」

「いいよっ」

ジョズの言葉にハルタが元気に答えた

「この前の晩…」

「ギャ――――!!!!」

「ニキ!!!」

ニキの声と隊長たちの怒声が甲板に響く

「あーもー結局お前は怖がってんだ。自覚しろニキ」

サッチが立ち上がりニキに言う

「てことで、言い出しっぺがこんなんだから終了」

「えー!!!!」

「それがいいかもねい」

「マジか。オレ怖がりたかったのに」

「またにしよ。な、栗獲る」

「ハルタ…漢字変換やめろ」

サッチに続きつぎつぎと立ち上がる隊長たち

しかしニキは頑固に座ったままだった

「ニキ怖くないもん!!」

首をブンブン横に振り1人否定するニキ

「ニキダメだよ。だってほら、ニキ震えてるし」

ハルタがニキの前にしゃがみ、ニキの肩に手をおいて言った

「………………。」

「今日はおしまい。なっ??」

「む〜………」

「"む〜"じゃねェよい。早く寝ろい。お前明日サッチとケーキ作るとか何とか言ってただろい」

「あ、そーいやァそんなことニキと約束してたな。忘れてた」

「………………。」

「だったら尚更じゃねェかニキ。寝るぞ。作ってる途中に寝られちゃかなわねェ」

サッチがニキにしっしと手を振る

「む〜む〜」

怖いと思えば絶対に怖がっている。それは自分でも自覚していたニキ。だけどみんなと話しているのが楽しかったから、もっとしていたかったのだ

でも仕方ないや

サッチは一回言い出したら変えない奴だ

ニキはつまらなさそうにその場に立つ

「よし。じゃあ戻るか」

サッチはそう言ってスタスタ歩き始める

エースも続いた

マルコも転がった酒の瓶をひとつひらいあげ、扉に向かって歩こうとしたが、ふとニキに目をやった

そして

「ん」

立ったままのニキの目の前に手が差し出された

「?????」

どういう意味かさっぱりわからないニキはそのまま手を見つめるばかり

「怖いんだろい。手ェ、繋いでやるよい。ちょっとは怖くなくなるだろい」

マルコはそう言うとニキの右手を握った

マルコの大きな手はニキに安心感を覚えさせ、震えを落ち着かし、強がっていたのを素直に変えていく

「ほんとだマルコ!!ニキ怖くない!!!」

ニキが笑顔でマルコを見上げると、マルコも笑った

「怖くないって…やっぱお前怖がってたんだな」

クリエルがボソリと呟く

「えーじゃあオレも繋いでやろーか??なぁニキ」

前でエースが振り返り叫ぶ

「いらない!!!」

「んなっ!!!マルコはよくてオレは無理ってなんだよ!!」

「ニキにはマルコがいるから構うな!!」

「彼氏持ちの女が別の男に告られた時みたいだな」

またも呟くクリエル

「彼氏……え??マルコがニキの彼氏??ニキいいのかよマルコなんかで」

「どういう意味だよい」

エースが言った言葉でマルコの眉間にシワがよった

「いや…彼氏フルーツでいいのかなと……あ、本当にすいませんでしたマルコさん。だからニキ!!つないでやるって言ってるだろ」

「エース話変えた。それにマルコはニキの彼氏って言われても何もないんだね」

今度はハルタが呟いた

「オレがニキの彼氏なんてありえねェだろい。というよりエース。なんでお前はそんなにニキと手ェ繋ぎたいんだい??」

「え、あ、は!!?な、なんでそんなことになるんだよ」

「怖いんだろ」

「サッチ!!!!!!」

気づけば先に行ったはずのサッチがエースの真後ろにいた

「怖がってなんかねーよ!!!」

「怖いんだな」

「……………。」

黙るエース

「あ!!!!!」

不意にハルタが青ざめた表情でエースの隣を指差した

「「ギャ――!!!」」

「うるせェよい」

マルコと手を繋いだままのニキとそんな二人の前にいるエースの頭にマルコの拳がふり下ろされる

「いってェ」
「痛い…」

「結局エースも怖がってんたんだな」

痛がり頭をおさえるエースにクリエルがニヤニヤしながら言う

「ちょ、ちょっとな……ほんとは怖いんだよ。わりィかよ」

苦笑しながらエースが白状した

ちょっと恥ずかしそうなエース

「じゃあエース!!怖いんだったらニキが手ェ繋いでやる!!!」

そんなエースにニキが言った

「わりィなァニキ」

ニキの右手にはマルコの手、左手にはエースの手

ニキは大好きな兄貴分たちに手を繋いでもらって、ただただ嬉しそうだった

「もうニキ怖くない!!」

「オレもニキのおかげで怖くねェかもな」

ルンルンな二人

「お前ら幸せな頭でよかったなァ」

そう言いながらサッチが甲板から船内に入るために扉に手をかける

「もうもしその扉の向こうに長い髪の女がいたって怖くない!!!」

その時ニキがそう叫んだ

「はいはい」

そんな叫びに適当に返事するサッチは扉をあけた

キィー……

しかし開いた扉の向こうには

『ギャ―――ッ!!』

長い髪の女がいた

「な、長い髪の女ァァア!!!」

訳もわからずただ叫ぶサッチと静かに驚くマルコ、怖さに発狂するその他もろもろは扉から一目散で逃げた!!

ニキが言ったことが現実になっている
長い髪の女、すなわち幽霊が目の前にいる

ニキはともかく、大の大人たちがかなり取り乱しているのは滑稽すぎる話だが、それほど恐ろしいものだった

が、しかし―――

「ギャ―――!!!!」

なぜか長い髪の女の幽霊もマルコたちを見て叫んでいた

しかもよく見ると長い髪の女の幽霊の後ろには、ビックリした表情のシルクハットを被ったおっさん幽霊と体にポケットいっぱい幽霊とドレッドヘアーの幽霊もいる

扉を挟み見つめあう二つのグループ

「幽霊じゃねェのかよ」

5秒後サッチが残念そうに叫んだ

「しかも長い髪の女じゃなくて男だねい」

マルコも呆れたように言った

「え…も、もしかして…イゾウ???それにビスタとブラメンコと…ラクヨウ???」

ハルタが甲板に置いてあるタルの向こうからのぞいておそるおそる言った

「え、え!!幽霊じゃないの!!!??」
「し、死ぬかと思った……」

ホッとしてヘニャヘニャと座りこむニキとエース

「え!!バナナの幽霊じゃなかったのかよ!!!」
「パイナップルの幽霊だと思っていたが…残念」
「火の玉が浮いてると思ったのによ……」
「子供の幽霊じゃないのか…」

同時に向かい側の集団から聞こえてくるため息と愚痴

「バナナとパイナップルの幽霊ってどんなだよい」

「いや…聞き流してくれ」

長い髪の女の幽霊、否――長い髪の男の幽霊、否――白ひげ海賊団16番隊隊長イゾウが申し訳なさそうに言った

マルコたちが幽霊と勘違いした集団はイゾウとビスタとブラメンコとラクヨウの四人だった

彼らもタンクトップにラフなズボンという完全なパジャマ姿で、イゾウも長い髪をおろし、ラクヨウもバンドを外している

しかしビスタはなぜかパジャマにシルクハットを被っているという奇妙な格好、ブラメンコは可愛いくまちゃんTシャツだった

「いや…さっきまでこいつらと怪談話しててな。寝ようと思って部屋に帰ろうとしたら甲板から声が聞こえたから…てっきり幽霊かと」

真剣に語るビスタ

それに続いてブラメンコも前に出る

「興味本意で扉開けようとしたらバナナの幽霊が」

「ひつけェなァブラメンコ」

マルコに睨まれブラメンコは苦笑した

「みんなオバケ話してたんだな!!」

さっきまで怯えていたニキが元気に言った

しかし

「なぁ…」

不意になぜかどんよりとしたクリエルが言う

「今から寝るって…オレ多分寝れねェわ」

爆弾発言

「え??マジで???」

サッチが笑う

「マジで」

あまりのクリエルの真剣さにサッチも他のみんなも黙る

だが

「実は言うとオレも」

ハルタが手をあげた

「お前らのせいで恥ずかしながらオレもだ」

ビスタまでもが手をあげた

「お前らのせいって…てめェらはてめェらで怪談話してたんだろい。ちょっと怖い思いしたからって…なんなんだよいお前らは」

驚くマルコ

しかし怖がっていたのはなにもニキやエース、後から言ったクリエル、ハルタ、ビスタだけではなかった

「オレも怖い」
「オレも1人は無理だな」
「オールするかみんなで」

「え、ブラメンコもラクヨウもイゾウもかよ!!!マジかよマジか!!??」

唖然とするサッチ

怪談話で寝れなくなるって…子供じゃあるめェし

サッチはそんなことを考えながらマルコを見た

マルコもサッチを見て驚いているばかり

「じゃあみんなで一緒に寝よう!!!」

ニキが嬉しそうに言った

「み、みんな??いや…オレは勘弁さしてもらうよい」

「あ、オレも」

「いやだ!!マルコもだサッチもだ!!たくさんいた方が怖くない!!!」

「そうだ!!そっちの方が怖くねェ!!」

はしゃぎだすニキとエース

勝手にみんなで一緒に寝ると決めてしまったようだった

「じゃあ誰の部屋で寝る??」
「オレら個人の部屋はみんなで寝るにはキツいな」
「オレのポケットに入るのは無しだぞ〜」
「食堂…甲板…いや…う〜ん」
「10人だろ??」
「こりゃ難しいな」

ハルタもクリエルもブラメンコもラクヨウもイゾウもビスタも大人の男として「賛成」とは言えなかったが、それでも一緒に寝る方向で話を進めている

「てめェら…幽霊怖がって恥ずかしく

「親父の部屋で寝よう!!!」

サッチの言葉を遮ってニキが叫ぶ

「おっ!!いいな」
「許してくれたらいいけどな」
「親父と一緒に寝れんのか!!そりゃいい!!」

ニキの提案にさらにノリノリになる7人

「マジかよ…」

「驚いたよい…」

そんな7人とは対照的に冷めた二人

だが

「でもまァ…親父と一緒に寝るのは別にいいかもねい」

「……同じく」

結局二人も親父と寝たいという気持ちはあったのだった

もう幽霊の怖さは全くなかった

みんなただ大好きな親父と一緒に寝たいという気持ちだけ


「親父の部屋にレッツゴー!!!」


ニキの無邪気な可愛らしい声が、船内に響きわたった


その日の夜は、ニキ、マルコ、サッチ、エース、ハルタ、クリエル、ビスタ、イゾウ、ブラメンコ、ラクヨウが親父の部屋で寝た

「グララララ!!幽霊が怖くて寝れねェだ??可愛い奴らだな!!グララララ!!」

親父はというと、そう言って嬉しそうに部屋にいれてくれたのだった

「ニキが親父の隣!!!」
「はぁ!?オレが親父の隣だ!!」
「オレだって隣がいい」
「実は言うとオレも親父の隣がいい…」

まぁ親父の隣の奪い合いになったのは言うまでもないが










「オレの怪談話…聞いてほしかったな…」

次の日の朝、すっかり忘れられて甲板に取り残されていたジョズが、ショックで本物の幽霊のようにニキの前に現れ、ニキを怖がらせたために親父とマルコにしばかれたのは別の話


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