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海は広いな大きいな



水平線の先に太陽が顔を出す時間

くじら船の船員たちはまだ夢の中だった


「よーしニキオレの名前を言ってみろ」

そんな中くじら船の甲板で男の声が響く―――


「サッチ!!!!」


答えたのは小さな小さな女の子の声だった

「そうだ。もう一度言ってみろ」

「サッチ!!白ひげ海賊団4番隊隊長サッチ!!!!」

甲板にいたのはまだ頭の髪がボサボサのサッチとニキだった

灰色のTシャツにダボダボズボンのサッチ

モノクロボーダーの長袖長ズボンパジャマ姿だが、サイズが少し大きいのか、袖とズボンの丈が長く手と足が見えていないニキ

2人は向かい合い、早朝にもかかわらず元気満タンだった

「オレの名前はシャッチじゃねェ」

「知ってる!!!サッチだ!!!!!」

「なら、あと三回」

「サッチ!!サッチ!!!サッチ!!!!」

「あと五回」

「サッチ!!サッチ!!!サッチ!!!!サッチ!!!!!サッチ!!!!!!」

「じゃあ、あとジュッ!!

突然の頭からの衝撃

しかも反動で舌を噛んでしまった

頭と舌の痛みに目から涙が出るサッチ

「……ってェな!!誰だァ!?ったく何しやがる!!」

――まぁだいたい予想はついてるが…

サッチは後ろにいる殴った張本人を睨みつけた

「何しやがるじゃねェよい」

そこには予想通り、まだ寝起きのマルコがいた

黒の大きめのタンクトップはダボダボで乱れており、下は楽な布製の膝下までの長ズボンというどこからどう見てもパジャマ姿のマルコ

ただでさえ細い目はさらに細くなり、髪が爆発してるようにボサボサでいつも以上に鳥の巣に見える

そしてその鳥の巣の下には普段よりも目立つ眉間のしわと不機嫌な表情が存在した

「朝っぱらから何騒いでんだい」

ポリポリと頭をかきながらマルコは2人を睨む

声が低いため怒っているのがよくわかる

睡眠を邪魔されたのがそんなにも嫌だったのだろう

「起こしたんだったら悪かったなァ」

そんなマルコにサッチはハハッと笑いながら謝る

「てめェら2人で何してたんだい」

サッチが笑ってもマルコの表情は変わらない

「あー…それはなァ」

サッチが説明しようとした時だった


「マルコ!!」


「……………!?」

マルコの目が見事に猫のようにまん丸になった

眉間のしわが綺麗になくなっている

眠たそうで、機嫌の悪そうな表情も驚きの表情へと変わっていた

――普段じゃァ見れねェ面だな

あまりのマルコの表情の変わりようにただ笑いをこらえるしかなかいサッチ

「今……なんて」

「マルコおはよー!!!」

ニキは自慢するように大きな口を開けてニッコリ笑った

「おいニキ……」

「なんだ!マルコ!!」

「歯……生えたのかよい…」

マルコはふらふらとニキの前にしゃがみ込む

「うん!!生えた!!」

嬉しそうなニキ

そんなニキの口の中にはまだ綺麗な白い歯が小さく生えていた

「だからちゃんとマルコとサッチって言えるんだ!!」

ヒヒッとニキは笑いながら甲板を駆け回り始めた

そんなニキを見てマルコはただやっと自分の名前を呼んでくれたことに感動していた

「……………。」

だが

「ん?どうしたマルコ」

サッチが無言のマルコに問いかける

「いや……成長期、始まっちまったんだなァって思ってな」

少し寂しそうに答えるマルコ

「あー……そうか……」

サッチも駆け回るニキを見つめた

「始まったら…早ェぞ?成長」

「ああ……知ってるよい」

「まァ3ヶ月も経ちゃァエースと同じぐらいになんだろ」

「……………………。」

再び無言になるマルコ

サッチはそんなマルコを見て吹き出した

「何だァ?マルコ、てめェ寂しいのか?ん?」

「…………………。」

「…………………?」

「まァ……そんな感じだい」

マルコは深くため息をついた

「でもそういう種族なんだからしかたがねェな」

サッチはしゃがむマルコに言った

「だがよ…エースぐらいになりゃァまた成長止まんだろ?そんときゃァニキもいい女になってんじゃねェのか??」

「あいつはなれねェよい」

「なるわけねェか」

ニキはまだ駆け回っていた

「全く……目ェ回らねェのかい」

マルコは今度は呆れてため息をつく

「まだガキだからなァうぜェからほっとけ」

サッチは腕を組みマルコの後ろで言った

「それよりマルコ。ニキのやつ歯が生えたこと一番最初にお前に言いたかったらしいぜ」

「だったらなんで言わなかったんだよい」

「ほら…あれだ、あれ。お前昨日食おうと思ってたケーキをステファンに食われて不機嫌だったろ」

「な…不機嫌になんかなってねェよい」

なってた。それでニキがビビって言えなかったんだとよ」

「だからなってねェ」

なってた。ステファン半殺ししそうになったの誰だよ」

「………………。」

「ケーキならいつでも作ってやんのに」

「え!!?じゃあニキにケーキ作って!!!」

さっきまで走りまわっていたニキが、気がつけばサッチとマルコのそばにきており、嬉しそうに叫ぶ

「断る」

「えー!!!今いつでも作ってやるって言った!!!」

「それはあれだ。ケーキ作ってやるとか言ってたおじいさんが昔とある船に乗ってたんだけど、不治の病にかかってケーキ作れなくなって、それに激怒した船長がおじいさんを海に沈めるけど、またそのことに激怒したおじいさんが幽霊となって船長呪って、船長の体力がどんどん減っていくようになって、でもそれがいやな船長が魔法の薬を手に入れて飲んだら、呪いがとけたなみたいな。っていう話を作ったとある医者の娘の息子のいとこのはとこのひいじいさんの元恋人が結婚するらしいよ。って話をマルコに言ってたんだよ」

「え?何サッチ??」

「あ、こいつ聞いてねェわ」

サッチがやれやれとため息をつく

「まァ作らねェってこと。あきらめろ」

「えー!!!やだ!!!プリンー!!!!」

「チョコケーキ!!!!」

「シュークリーム!!!」

「コーヒーゼリー」

「フルーツタルトを」

「キャベツサラダ!!」

「ようかんと葛餅とういろう!!」


しーん……


「なんでてめェらまでいんだコラ」

気がつけばニキの後ろにはパジャマ姿で頭ボサボサのエース、ジョズ、ビスタ、ハルタ、クリエル、イゾウがいた

「何でてめェらもどさくさ紛れに頼んでんだよ」

苛立つサッチ

「へへっ」
「ちょっとはずみで」

そんなサッチとは対照的にニコニコ笑顔のエースとハルタ

「ったく…イゾウは和菓子ばっか3つも頼みやがるし…それに苦理枝留……キャベツサラダって何!!!??

「え、ちょ、漢字…なんの四字熟語それ!!!??」

「全員お菓子で言ってんのにてめェだけサラダってなんだよ!!!作る気失せるわ!!!ま、作らねェけど!!!」

「作ってよー!!!」

「黙れ黙ってくれニキ」

あまりの突然なことに頭を抱え出すサッチ

そんなサッチの後ろからマルコが不思議そうに言った

「お前らも起きてたのかよい。でもイゾウとハルタとジョズとビスタとクリエルにはまァ驚かねェけど……エースがこんな早朝に起きてくるってのはどういうことだい」

マルコはボサボサの頭をエースに向けた

「ニキのうるさい足音で目が覚めたんだよ。だってこの下オレの部屋」

「うるさいとか言うんじゃねー!!!」

ニキはエースをポカポカと殴る

「ん?おいニキ」

エースはそんなニキを持ち上げ顔、というより口を見た

「歯が生えてんじゃねェか!!」

「ヘヘヘッ」

「ホントに!!?見せて!!!」
「ニキよかったなァ!!エース兄ちゃんは嬉しいぞ!!!」
「へー。やっと大人への第一歩か」
「泣けてくるな…」
「そうか…やっと来たか成長期。よかったなニキ」

ニキと同じぐらいに笑顔ではしゃぐエースにハルタ、そしてしみじみとニキを眺めるビスタとジョズとイゾウ

「だからサッチが歯が生えたお祝いに特大プリン作ってくれるって!!」

ニキが言った

「んなこと一言も言ってねェ」

「サッチいいじゃねェかい。チョコレートケーキも特大プリンも……あとチーズケーキも……それぐらい作ってやれい。どうせ今日の晩は宴になんだろい」

「チーズケーキぃい?」

「シュークリームもよろしく!!」

エースはニキをおろしながら言った

「今日の晩が楽しみだな!!なっニキ」

「だな!!エース」

「料理長にも頼まなきゃァな」

ジョズは1人呟いた

「だからサッチ…頼んだぞ」
「ようかんだけにしといてやるから」

ビスタとイゾウが笑顔でサッチの肩をたたいた

「キャベツサラダは諦めねェけどな」

「クリエル、お前のははなから論外だ」

「サッチぃー!!ケーキケーキ!!!」
「シュークリーム!!!」

ニキとハルタも騒ぎだした

「アップルパイでもロールケーキでもなんでもいいよい。とにかくチーズケーキを作ってくれい」

「結局チーズケーキがいいんだろ!?」

サッチはまだセットしていない髪をかきあげた

「わかったわかった!!わかったからおめェら一回黙れ

「やったぁ!!サッチが作ってくれるー」

ニキはサッチの周りをぐるぐると回り始めた

「しかたねェな……歯が生えた祝いだ今回だけだぞ」

やったやったと言いながら走り回る

だが、すぐに何かを思いついたのか立ち止まった

「あ!オヤジにも歯が生えたこと言いにいこぉー!!」

そう言うとニキは白ひげの部屋に向かって走り出した

「ちょっと待てい、ニキ」

そんなニキを止めたのはマルコ

「えー!!なんでー?」

「今何時だと思ってんだいまだオヤジは起きねェよい」

「んなことしらねー!!ニキは行くー!!!!」

「お、おい…!!」

ドタドタドタドタ………

ニキはマルコの言葉を無視し結局走って行ってしまった

「ほォっておけ」

サッチは背伸びをしながら言う

「で、オレらはどーする?着替える??」

エースが言った

「あ……そうだった」

サッチは思い出したようにみんなを見回す

「全員パジャマだな」

「パジャマって言うなよ…」

恥ずかしそうなクリエル

「着替えっかねェ」

イゾウは背伸びした

「じゃあオレ部屋に戻ることにする」

「あ、オレもー」

「どうせ二度寝だろい…エースもハルタも」

「オレも二度寝…ニキも歯が生えたことだしいい夢見れそうだ」

「本気で寝る気かいジョズは」

ビスタは笑いながらジョズに言った

8人の隊長はドアの方へと向かう

先頭のエースがドアを開けた

その時だった

「グラララララ!!そうか!!ニキにやっと歯が生えたか!!」

中から聞こえてくる大きな笑い声

「ニキのやつ…結局起こしてんじゃねェか」

サッチは呆れたように言った

「起きるオヤジもオヤジだい」

「オヤジはニキには甘いから仕方がねェ」

サッチに続きドアをくぐるのはマルコ


「ニキもいつまでああやって甘えるんだろうな」


エースが不意に呟く

エースが言った言葉に最後に入ったマルコとサッチは足を止めた

「年はオレと変わりないのにな!!」

「無邪気すぎるんだろ」

「可愛いから許せるけどな」

「なんかイゾウが言ったら変態みたい」

「おいハルタ、それを言うならビスタだろ」

「言ってくれるね区利江流」

「……………。」

しかしエースたちは気付くことなく先に行ってしまった

「なァマルコ」

2人がいなくなって間もなくサッチが言った

静かだが時々親父の笑い声が響く廊下

「ん?」


「やっぱりオレも寂しいかもな」


「なんだいソレ」

「うるせェ」



ニキの成長はまだ始まったばかりである


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