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ガキ上等!!!


とある満月の夜―――

まだまだ船の上は賑やかだった

酒の瓶を片手に酔っ払い
笑いあう声が響く食堂

甲板で踊りまくる船員たち

そんな場所から離れた静かな船員たちの部屋が並ぶ廊下――

いくつかの2番隊隊員専用の部屋のうち

『女性用!でもとくに関係なし!!』

と書かれた札が扉にかけられた部屋には明かりが灯っていた


「むかしむかしあるところに…」

「ねぇ!!それっていつのどこだ!?」

「さァな……おじいさんと」

「おじいさんって誰だ!?」
「知らねェな……おばあさんが」

「知らないおじいさんと知らないおばあさんなんだな!!!」

「そォなるな………いました」

「なぁ!!マリュコ!!!知らねぇおじいさんとおばあさんの話されてもニキはおもしろくないぞ!!」

「てめェが読めっつったんだろい


部屋の中にいたのはマルコとニキだった

部屋の四隅に置かれた二段ベッドの1つの下の段

そこに布団をかぶりもうしっかりと寝る体制に入ったニキと絵本を片手にベッドに腰掛けたマルコがいた

「だってガキは寝る時間だとかニキはガキじゃねェのにみんなが言うから!!!!」

「絵本読めっつう時点で十分ガキだい」

「んな!!」

「だいたいなんでてめェが寝つけねェからってオレが絵本読まなきゃならねェ」

「うるせぇ!!早く続き読めー!!!」

「……………。」

「ごめんなさい………」

ニキは睨むマルコから隠れるように布団を頭までかぶった

マルコはそんなニキを特に気にすることなく、持っている絵本に目を向けた

「マルコ読んでー」

布団に潜ったままなので、ニキの声はこもっていた

「読んでくださいじゃねェのかい?」

「え〜………読んでください」

「ハハハッ」

ニキの単純さに思わず笑うマルコ


そもそもなぜマルコがニキに絵本を読んであげることになったのか

それは30分前のお話










てちてちてちてち……

ワイワイワイワイワイワイワイワイ

今日は一段と船の上がうるさい

その理由は、とある島に上陸したときに宝の山を見つけたからだった

だから今日は豪華に宴をしている

もちろん船員たちには大量の酒が入っていた

ワイワイワイワイワイワイワイワイ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

酒樽を抱える者
大声で笑う者

食堂も甲板も廊下でさえも酒の匂いが漂っていた

そんな所に全く似合わない、というよりいてはいけないような小さな女の子が、両手にたくさんの料理がのった皿を持って甲板に現れた

小さな女の子――――

ニキである


「オヤジ〜!!!」


ニキはそう一言叫ぶと、はるか先にいる白いひげをはやした大男に向かって走り出した

が、しかし

「お?オヤジんとこ行くのか??」

「そんな料理欲張ってどーする」

「ニキも酒飲むかァ〜?」

「ちいせぇから踏まれるぞ〜」

「ウィ〜ヒッヒッヒッ…」

甲板には半分以上の船員が集まっていたためほぼ密集状態

なかなか前には進めなかった

「うがー!!前に行かせろー!!!」

叫んでみても騒ぎ声でかき消されるだけ

結局その場で座り込むはめになってしまった


「何してんだ?」


不意に頭上から聞こえた優しい声

「あ!!!」

エースだった

「こんな所でなんで座ってるんだよ」

呆れた表情のエース

「オヤジにこのご飯あげたかったのにオヤジの所まで行けなかった」

「あ〜……そりゃ残念だったな」

エースは頭をボリボリと掻いたあと、右手をニキに差し出した

「じゃあ…一緒に親父んとこ行くか」

しかし手を差し出されても大量の料理がのった皿を両手で持っているため、ニキはどおすることも出来なかった

「あ―そうか」

エースはニッコリ笑うと、片手でその皿を持ち、空いている方の手でニキと手をつないだ

「ありがと!!隊長!!!」

「ハハッ、てめェは勝手なときだけ隊長って言うよな」

「気のせいだ!!」

エースとエースに手を引かれたニキは船員たちの間をするすると通り抜け、あっという間に親父の目の前またどり着いた

そこには親父だけではなくマルコとジョズと

そして

「オヤジ!!!」

ニキはエースの手を離し白ひげ向かって一直線に走り出す

バチコーン!!

「シャッチィィィィイイイ!!!」

サッチがいた

「サッチだ。何しにきたァ??まァたイタズラか??」

「シャッチには関係ねぇもん!!」

殴られた頭をさすりながら叫ぶニキ

「グララララララ!!派手にやられたなァニキ」

そんなニキを見て豪快に笑ったのは、【白ひげ】ことエドワード・ニューゲート

「オヤジ!!!」

ニキはまたもそう叫ぶと今度はしっかり親父の足にしがみついた

「ニキ、オヤジにご飯渡しにきた!!!」

「あぁそうか」

「食ってくれるか!?」

「ったりめぇだグララララララ!!」

ニキはヒヒッと笑うとエースから皿を受け取り親父の隣に座った

エースもマルコの隣に腰を下ろし、マルコが差し出した酒の瓶を受け取る

「そぉいや俺まだ宝見てねェんだけど何かいいもんあったか?」

酒を飲みながらエースはマルコに聞いた

「いいや…特に使えそうなもんはなかったよい」

マルコはひらひらと手を振る

「全部金にかえるしかできねェようなもんばっかだい」

「そーか」

エースはそう言うと目の前の肉に手を伸ばした

と、その時――――

「ニキはいいもん見つけたぞ!!!」

不意にニキが目を輝かせて立ち上がった

「ん?…モグモグどおしたいきなり…モグモグ何見つけたんだよモグモグ…」

目を見開きながら肉を頬張るエース

マルコたちも驚き手を止めた

「絵本見つけたんだよ!!!」

「絵本?」

親父は首を傾げた

「あんな黄金だのジョズだのしかねェ宝の山にそんなもんがあったのか…」

「うん!!ワノ国のものだって誰か言ってた!!」

「おい、親父」

ジョズは静かに親父を呼んだ

「何だ、ジョズ」

「あんな黄金だのの次……何でオレなんだ……?」

「ダイヤモンドって意味に決まってんだろ!!グラララララ」

Σ(゚□゚;)

「親父がギャグをぶっこいた……!!!」

エースは食べかけの肉を落とす

「どんだけ驚いてんだいエース。親父は酔ってんだよい」

マルコはエースが落とした肉を拾い上げエースの口に押し込んだ

「ヒヒヒッ何だ?酔ったらギャグを言うようになるのか?」

興味津々なニキ

が、聞いた相手が悪かった


「ガキは黙ってろ」


「シャッチィィイイイ!!!」

「サッチだ。クソガキさっさと歯は生えろよ」

「もーニキはガキじゃねー!!」

「てめェ誰に向かってそんな口聞いてるんだァ?」

「シャッチ!!!」

「シャッチぃ?誰だそれ??俺はサッチだ」

「シャッチシャッチシャッチシャッチ」

「うぜぇな……おいガキもう11時だ」

「ガキじゃねー!!11時がなんだ!!」

「ガキはもォ寝る時間だろ………とっとと寝ろ

「えー!!!」

サッチはしっしと手で追い払う仕草をし、「てめェはうぜェからな」と言った

「えー嫌だ」

ブーブーと拗ねるニキ

「でもまぁ…別にオレはうざい訳じゃねぇけどサッチの言うとおり子供は寝方がいいかもな」

「え〜……子供じゃないもん」

思いがけないエースの発言によけいニキの頬は膨れ上がる

「サッチとエースの言うとおりにしろい

・・・・・・・・
年齢ではよくても
・・・・・・・・・・・・
体が追いついてないだろい」

マルコも言う

「………………。」

ニキの頬はパンパンに膨れ上がり涙目になっていた

が、しかしニキは何かを思いついた

拗ねていた顔がみるみる笑顔に変わる

「なんかコイツ考えたな」

そんなニキを見て、サッチは嫌そうに言った


「じゃあ寝るから読め!!」


ドーン!!

仁王立ち


「ほら、やっぱり」

「いきなり何だよい」

「読めって…何を?」

「絵本読め!!!!!」

ゴーン

4人の時間が止まる

「誰か絵本読んで!!!」

「「「「ぜってェ嫌だ」」」」

全力で拒否する隊長たち

「グラララララ!!」

親父はというとそんな様子を見て腹を抱えて笑っていた

「なんでてめェに絵本なんざ読んでやらなきゃいけねェんだよ」

キレるサッチ

「絵本とかオレ読んだことねーしな」

焦るエース

「悪いな…ニキ、オレはそおいうのは無理だ」

謝るジョズ

「オレは本ならよく読むけどよい……人に読み聞かせするのは「得意らしいぜ」

サッチどーん

「サッチてめェなァっ!!」

サッチのでまかせに立ち上がって否定するマルコ

「えー!!この前ハルタに絵本読み聞かせてただろマルコ!!!」

「ハぁルタだァ!!?ふざけんじゃねェよい!!あんなペコちゃん王子に何でオレが読まなきゃならねェんだ!!!!」

マジギレマルコ

「えー。この前"野性に戻る人妻"って本読んでくれたじゃんマルコ。すっごく上手だったよ」

ハルタどーん

「急に出てきて話合わすな!!てかなんなんだよい…そのいかがわしいタイトルの本は!!んなもんねェよい!!!」

「へー。おもしろそうだなそれ。オレにも読んで聞かせてくれよマルコ」

クリエルどーん

「てめェもか…栗獲る」

「漢字変換するのやめて??」

「おい栗獲る!!お前がその本読み終わったら次オレに貸せ」

ラクヨウどーん

「そんな本ねェよい。栗獲るもな」

「だから漢字変換するのやめて??」

酒が入って隊長たちのテンションはおかしくなっていた

クリエルは泣き出すし、ハルタは「上手だったよ」の連呼、ラクヨウは「貸して」の連呼

サッチは「お前が読んでやれ」ばっかりで、ジョズは「悪いな」の一点張り。エースはひたすら肉を食ってそして寝ていた

いつもなら一緒に楽しく騒ぐのだが、今回は話の内容が内容

オレが絵本読むって……なんだよい

ただただ苛立たしいマルコだった

しかもそれに加え疲れも感じ始めたため、マルコはあきらめモードになってきていた

ニキに目をやるマルコ

ずっと大事に絵本を抱えている様子を見てマルコはついに折れた

「わかったよい」

「え??何??エロ本貸してくれること???」

「堂々と言うねい……だから持ってねェって言ってんだろいエース。貸してほしいならサッチに借りな」

「な、マルコ!!!!??」

慌てるサッチを無視し、マルコはニキをひょいと抱き上げた

「マリュコ読んでくれるのか??」

嬉しそうなニキ

「読んでやるよい」

マルコは優しくそう言った

「グララララ!!!やっぱりマルコは上手に読み聞かせできるみたいだな。じゃあマルコに決定だ!!よかったなァニキ!!」

親父が豪快に笑う

そして

「だからそこのエロ本話で盛り上がってるお前ら……もう黙らねェと粉々にするぞ…

「ごめんなさい」










「鬼を退治した桃太郎は宝を持って村に帰りおじいさんとおばあさんと幸せに暮らしました…………」

ぽんっ

絵本を閉じる

表紙には『桃太郎』と書かれ、その下にはアホらしい笑顔の少年の顔が大きく描かれていた

「………」

慣れないことをしたことと、さっきのテンションMAXな絡みがあったために疲れた様子のマルコ

だからマルコは絵本をすべて棒読みで読みきった

「終わったぞい」

「……………。」

「……………?」

しかし反応はなく

「……………。」

気づけばニキはもう眠っていた

「せっかく読んでやったのによい」

口を大きく開けて間抜けな顔して眠るニキ

「やっぱりまだ子供だな」

マルコはそんなニキを見て、そして絵本の表紙に描かれた成長した桃太郎の絵を見た

「ぐー……くかー」

いびきをかきはじめたニキ


―――いったいこいつはどんな大人になるんだろうねェ…


ふとマルコはそんなことを思う


ちゃんとした女になれんのかよい

ニキの歳は
・・・・・・・・・・・・・
たいしてエースと変わりねェのに

体はともかく……

精神年齢ときたらこいつは低すぎるんだよい


マルコは絵本をベッドの隣のランプが置いてある小さな机に置いた

時々いびきをかくが大半はスースーと寝息をたてるニキ


―――……………。


マルコ小さな女海賊の頭を撫でながら、何を思っているのか時々微笑むその顔をただ眺めていた

・・・・
今はまだなにも感じないその表情

マルコはニキの布団を綺麗にかけ直すとランプの火を消し静かに部屋をあとにした


あきゅろす。
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