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全力兄貴6



夕日がまぶしく、空が真っ赤に染まってきたころ

ビスタは1人薄暗い路地裏を歩いていた

そこはなんとも言えないような臭いに包まれており、自然と人を苦い表情へとさせる

人は誰1人見あたらない

そして海が近いのか波の音が少し聞こえていた

「………………」

ビスタはただ前だけを見つめて歩いて行く

ニキの行方不明を知り、いてもたってもいられなかったビスタはマルコやエースたちのように変装はしていなかった

「……しかし臭いがキツいなここは…。早く抜けた方が良さそうだ」

ビスタはそう呟くとさらに歩くスピードを早める

先には大通りに繋がっているのだろうか、明るい光が見えていた

「フィーナとチック……ニキを残して先に逝ってしまうとは…」

ビスタは先に見える光を目指しながらニキの今は亡き両親を思い出す

ニキのように好奇心旺盛でトラブルメーカーだった母のフィーナ

おっとりしていて見るからに優しそうで、実際かなりのお人好しであった父のチック

そんな二人からニキは産まれた

フィーナは5番隊隊員でビスタの部下だった

ひとつの部隊が100人近くいる中でフィーナは雑用係並みの位置にいたのだが、性格が性格なだけあって、よくトラブルを起こす、元気ハツラツなムードメーカーなどで隊長たちの間では有名だったりした

マルコにパイナップルやバナナと言い出したのは実はこのニキの母親フィーナが始まりだったりする

もちろん月とすっぽんぐらいの地位の差なので、隊長であるマルコとはそれほど仲良くなく直接言ったわけではないが、バカなやからの集まりである

そんな冗談はすぐにひろまっていった

あのあと立場上隊長であるビスタが叱るはめになったのだが

――そういやあの時…思っていても言っていいことと悪いことがあるとかフィーナに言ったな…。今思えばオレの方が失礼か…

フフッとビスタの口から笑みがこぼれる

フィーナは何かと危なっかしい娘だったために、隊長であるビスタが常に見張っていなければいけなかった

どこかの島に上陸するにしろ、船の雑用するにしろ

四六時中である

だからチックとの関係を知った時は驚きのあまりビスタの心臓は止まりそうになったのだった

いつどこで話すようになったのか、いつどのタイミングで恋におちたのか、全く気づかなかったビスタ

しかもそれはビスタに限らず、マルコやサッチなどの他の隊長たち、オヤジまでもである

白ひげ海賊団13番隊隊員チック

船大工だった

もちろんフィーナ同様、雑用に近い位置にいた影の薄い船員

そしてニキの特殊体質の原因となった種族である

当時チックの年齢は40歳前後だったが、なんと見た目は25歳ぐらいだった

チルド族
別名――疫病神

それは常に若い種族だった
体の年を取るのが通常の人間より2倍遅い種族だった
寿命がきて死ぬときでさえ体は40歳ほどの若さである種族だった

そしてもうひとつ付け足すと、昔から村や町に1人でもチルド族がいると、その村や町は時が止まり発展しなくなるとして差別されてきた種族だった

珍しい種族なためにチックは町から追い出され、海に出ることとなり、白ひげ海賊団へと入団した

ごく普通の人間であるフィーナとチルド族であるチック

活発な女と心優しい男

そんな二人はニキが産まれて1ヶ月ほど経った時に上陸した島で


他の海賊に襲われ命をおとした


辻斬りのようなものだった

襲ってきた海賊はチックとフィーナが白ひげ海賊団の一員であると知った上で、事実上海を支配している白ひげへの恨みをこめ、家族で幸せそうに歩くチックとニキを抱いたフィーナを50人以上で取り囲み背後から刺した

悲鳴を聞き白ひげと隊長たちが駆けつけたころにはすでに遅かった

白ひげと隊長たちの目に飛び込んできたのは、真っ赤に染まりその場に倒れていたチックとフィーナ

そして刺した張本人である海賊団の船長が、次に小さな赤子だったニキを殺そうとしているところだった

そのあとは言うまでもない

怒り

それしかなかった

幸せな家族を襲った海賊は、白ひげと隊長たち船員たちの怒りによって全滅

10秒あるかないかの舜殺

特にビスタはこの時後悔していた

なぜいつものように見ていなかったのかと

なぜ、子供ができたんだから以前のようにトラブルは起こさないだろうと安心したのかと

なぜ家族の時間を壊さないようにと、そっとしておいたのかと

あんなことになるのなら、少しの幸せぐらい潰せばよかったと

なぜフィーナとチックじゃないとだめだった

偶然にしても残酷すぎる

自分たちにとっても、ニキにとっても

どうして海賊に遭遇したのが自分じゃなかった

これはあの日から離れない疑問

考えても考えても答えのでない疑問にビスタは天国へ向けて謝るしかなかった

だからビスタは白ひげ海賊団のなかで最も責任を感じていたのだった

見張らなかった自分のミスではないが、そうとしか思えない

どこか納得できない

あの日からビスタはニキをフィーナのかわりに、チックのかわりに大切に育てようと決めた

白ひげも他の隊長たちも同じ決意をいていたが、ビスタはそれよりも強かった

「………………。」

育て方でわからないことがあればナースに聞き、自分なりに頑張ってニキを育ててきたビスタ

「……………………。」

オヤジが親のかわりなら、オレは兄になろうと実の両親に負けないぐらいの愛情を注いできたビスタ

「……………………。」

だからこそ思う

「………………………。」

だからこそ腑に落ちない

「…………………………。」

ニキがマルコになついたことに

それが現在のなによりの疑問であった

ニキは隊長たちに育てられた
その中でも一番可愛がっていたとビスタは思っていた
しかしニキはマルコを選んだ

だがこの疑問にビスタには1つの推測があった

精神年齢が低すぎるために確認はまだとれないが、それでも薄々感じていること

ニキはエースと変わらない年である

一般的には年頃の女だ

もしかすると、もしかするとだ

ニキはマルコのことが好きなのではないか

1人の男性として、ニキはマルコのことが好きなのではないのかと

しかしビスタは今は想像や妄想に近い推測だと思っている

――ニキのマルコに対するあの信頼度は半端じゃないからな…

――言い訳ではないが、恋愛感情があるのなら納得できる

「しかし紳士たるもの嫉妬など滑稽な話だな……」

路地裏を歩きながら呟くビスタ

「いや、嫉妬ではないな……寂しいだけか」

出口はすぐそこだった

光が眩しいため、シルクハットで影をつくる

――しかし、娘をもつ父親が、その娘を嫁にだすときの気持ちとは、まさにこんな気持ちか???

意外に自分は親父臭いらしい

路地裏を出ると海岸沿いの石の道へ出た

夕日に照らされ海が輝く
潮風が少し冷たい

「ニキ…お前までいなくなったらオレは…オレたちはどうすればいい」

ニキは白ひげにとっても、隊長たちにとっても、他の船員たちにとっても大切な家族

ビスタは途方にくれ、空を仰いでいた










「っはぁ…はぁ…」

男が全速力で走る

「…はぁ…くそっ!!」

時々なにかを確認するように後ろを振り向く

「……やばいな…少し休まねェと……はぁ…だいぶ疲れてきやがった…」

男は周囲を確認すると、すぐとなりにあった家のドアノブに手をかけた

ガチャリ

ドアには鍵がかかっておらず簡単に開く

「わりィ…おじゃまします!!」

そう言うと男はすばやく家の中に入った

「…………」

家には運良く人がいないようだった

男はヘニャヘニャとその場に座りこむ

「………疲れた……はぁ…なんなんだよ、ったく」

オレンジ作業着に赤色キャップのその男――エースは、強敵と戦ってきた後かというほど疲れきっていた

―――――…

外から小さく声が聞こえる

しかもそれは1人のものではなかった

―――ァ…〜…

その声はだんだん近くなっており、見なくても人が何十人もいることが確認できる

「…………ひつけェな」

現在エースは何者かに追われていた

エース自身、一体何者なのか、なぜ追われなければいけないのか、全くわかっていない

―ァ〜…ァ〜

ドタドタドタドタ…

足音と呻き声にも似た声がすぐそこまできている

「なんなんだあいつらは…オレなんか悪いことしたか??あ、今日間違ってハルタのパンツはいてんだった。え、それか??別にんなこといーじゃねェか…間違ってオレの部屋に置いてあったんだしよ」

ぶつぶつ文句を言うエース

ちなみにそのハルタのパンツはパンダの絵が描いてあったりする

「いや…この前間違ってサッチのスカーフをステファンのう○こ取りに使ったことか??」

エースはひたすら考え続ける

「もしかしてオヤジにこの前秘密でお小遣いもらったのがいけなかったとか…あ、クリエルの帽子をスイカと間違えて食おうとしたこととか」

エースは1人過去のささいなことを思い出していくが、どれもこれもわけのわからないものばかり

簡潔に言うとエースはなにも悪いことはしていなかった

あれはただの正当防衛

このできごとは正当防衛から始まったよくわからない出来事である

エースが追われるはめになったのは、かれこれさかのぼること1時間前










「ニキー。ニキどこだー」

オレンジ作業着に赤色キャップのエースが1人人混みの中を歩く

「誰かお探しですか??」

「ああ。でも大丈夫だ。気にしないでくれ」

エースは心配して話しかけてきた祭りの警備員を適当にあしらうと、ふたたび街をキョロキョロしながら歩きだした

本当にキョロキョロと聞こえてきそうなぐらい真剣なエース

「おーい!!ニキー!!」

エースは祭りのど真ん中でニキを探していた

マルコたちと別れてひたすらニキを探したが一向にニキは見当たらない

誰かがニキを見つけたという連絡もなく、ただ叫び続けるだけだった

「っかしィな…祭りの中にはいねェのか??ちょっとはずれたとこ探してみるか」

エースは人混みの中をスルスルと抜け、近くの細い道へと入っていった

細い道は大通りと違って人は少なかった

後ろではにぎやかな声や音楽が聞こえてくるのに、目の前は人がまばらな穏やかな空間

エースは少し場所をかえただけで雰囲気がガラリと変わることに驚きを感じていた

「さーて。ニキはどこだ??」

場所をかえ、ニキ捜索を開始するエース

石の道の上に並ぶ、同じく石やレンガでできた家

歩いていくうちに住宅街へと入ってきてしまっていた

「迷路だなここは」

エースはそう呟くと帽子の上から頭をポリポリとかく

あたりを見回すと人は見当たらなくなっていた

「みんな祭りに行ってんだなァ」

エースは誰もいない道をニキを探しながら歩いていった

しばらく歩くと少し薄暗い道にさしかかった

全体的に4、5階建ての石の家が並び、上の方は橋などで家同士が繋がっているという独特なつくりの街並みであるこの島

エースがきたこの場所は他の場所より橋が多く、そのせいで光が遮断されていた

「幽霊怖いニキがわざわざこんなとこくるわけねェか」

そう言ってエースはさっきより気を抜いてあたりを見渡す

すると明らかに留守であろう家ばかりが並ぶ中で、ひとつだけ人がいる家を発見した

「お、人いるじゃねェか。聞いてみるか」

エースはためらいなくその1人の人間を目指して歩く

「おい、ちょっといい…」

しかし人に近づいていくと、おかしなことに気づき、とっさに話しかけようとした口を閉じた

人は1人ではなかった

ざっと100人ほどだろうか

ただでさえ薄暗い道の、それよりも暗い一角で人が集まっている

祭りの最中だということを考えれば、そんなことさほどおかしくないことだったのだが、この集団は明らかに異様だった

無言

人が100人も集まっているにも関わらず無言

しかも皆うつろな目をして色々な方向に向いているのだ

「………………」

エースはどうしたらいいのかわからなくなっていた

――そ、葬式か??いや、服装はいたって普通だし…

エースはその集団から不気味なものを感じていた

しかしエースはそのおかしな光景が気になる

意を決してすぐ近くの1人に話しかけた

「おい、ちょっといいか??」

肩に手をポンとのせる

その時だった

「ア゙〜!!!!!!!」

「え??」

エースが呼びかけた人が呻き声を発したかと思った瞬間

「おい、ちょっと待ててめェ!!」

いきなり襲いかかってきたのだった

「なんだよいきなり!!!」

両手でエースの肩をもち噛みつこうとしてくるその人間

「なにすんだ!!はなせ」

一般人に能力を使って傷つけたくないエースは襲いかかってきた人間を振り払う

人間は地面に叩きつけられた

「…ゾンビ気取りか??」

エースはやれやれと顔をあげた

しかしそれでは終わらなかった

「ウガァァァア!!!」

「え??」

エースは先程の奇妙な集団に取り囲まれていた

「ちょ、お前らなんなんだよ!!」

叫んでみるがどの人間も呻き声しか出さない

しかも

「ア゙ァ゙ァ゙!!!!」

全員が襲ってきたのだった

「だからなんなんだよー!!!」

エースは理解不能な状況にただ声をあげ、襲いかかってくる人間たちを殴って逃げるしかなかった

「しかも追ってくんのかよ!!」

逃げるエースをなぜか追ってくる奇妙な集団

しかも全員がゾンビのように追ってくる

「な…なんなんだよ!!!」

この言葉を何回言っただろうか

言えることはただひとつ


意味不明


そして現在にいたるのだった

哀れ、エース





全力兄貴7へ続く


▼after word

ビスタ祭りに加え、なんだこれミステリー??
ゴチャゴチャしてますがオチはちゃんと考えております
なので全力兄貴いつかは必ず完結します←


あきゅろす。
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