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全力兄貴3



その日のモビーディック号は静かだった


「ニキが迷子になったらしいな」

ビスタがコーヒーを手に一言つぶやく

「そうらしいですね」

ビスタの横にはさきほどマルコとサッチの争い中に現れたマルコの部下

2人はモビーディック号の甲板にいた

「まったく……エースも哀れだな…あんなガキが部下にいてよ」

「そうですね」

「ん?ガキじゃないな。たしかニキの体の成長は始まったから………」

「あ、始まってますよね。めでたいです。もう3ヶ月ほどでエースさんぐらいまで成長するらしいですよ」

「そうらしいな……珍しい種族もいるもんだ」

ビスタはコーヒーを飲む

「ニキが年齢のわりに幼く見えるのは精神年齢が低すぎるからですよ」

マルコの部下は言った

「はァ……せめて精神年齢だけでも実際の年齢に追いついてたらよ……」

「ですね。だったら迷子なんてならないでしょうし……」

ビスタは大きなため息をついた

「まったく………ニキは昔から人に苛立ちと心配をかけるのが得意だな」

「ビスタさんもやっぱり心配ですか?」

「……………あまりまえだ。オレはあいつが生まれた時から世話してるからよ」

「家族ですね」

「だな」

そう頷くとビスタはコーヒーを飲み干しカップをすぐ横にあった樽の上に置いた

「もしかしてビスタさんも探しに?」

マルコの部下は船をおりようとするビスタに問う

ビスタはそんな部下を鼻で笑いそして言った

「かわいい妹を探しに行くのは兄の義務………じゃねェのか?ん?」









人で溢れかえるメイン道路から少しそれた所にあるごく普通の住宅街の路地

さすがに静まり返ってはいないもののそこには騒がしさはなく穏やかさが存在した

「おっさん!!!おっさんってもしかしてパイナップルの妖精!!!?」

10歳ぐらいの赤毛の少年が言った

「…………。」

「ちがうよ!!ボビー!!おじさんはバナナの妖精だよ!!」

こちらは同じく10歳ぐらいで金髪のセミロングの少女

「…………。」

「ボビーもエレナも何言ってんだ…どう見たってヤシの木の妖精だろ?」

最後はメガネをかけた最初の2人より少し年上に見えるのっぽの少年だった

「…………。」

「えー!!絶対にパイナップルの妖精だ!!」

「いいえ!!バナナよ!!ねぇ!?おじさん!」

「ヤシの木だって2人とも…」

「おい……」

「あ!!すいませんねぇ。ボビーもエレナも失礼なことばっかりで。あなたは本当はヤシの木の妖精だというのに!!!」

「てめェが一番失礼だよい」

住宅街の路地でかれこれこんなやりとりが男と3人の子供たちの間で30分ほど続いていた

男―――すなわち白髭海賊団一番隊隊長マルコは大切な妹分であるニキが行方不明になったため捜索中だったのだが

彼は今悪魔に取り付かれていた

「おっさんはパイナップルの仮装でハロウィンに参加してんのか?」

ボビーという名前の少年がマルコの頭を不思議そうに見ながら問いかける

「パイナップルの仮装なんて今までも見たことないや」

「バナナの仮装だよね?」

エレナという少女もマルコに近づく

「だからヤシの木の仮装だって」

最後ののっぽ少年は、そう言いながらメガネをかけ直した

「頭だけに仮装なんざ聞いたことないねぃ」

小さく呟く黒スーツの黒縁眼鏡マルコ

しかしさっきまで妖精だのなんだので騒いでいた少年たちはなぜか急にマルコを人間あつかい

言っていることは結局無茶苦茶だったがマルコなぜかほっとしていた

「……って…おれほっとしてる場合じゃねェだろい」

ったくおれはいつからバナナやパイナップルに恐怖を抱くようになったんだい?

しかも今日は新たにヤシの木まで……くそっ……今はニキを探さないといけねェのによい!!!

マルコは気を取り直し目の前の少年たちとしっかり向き合う

「ちょっとおれ急いでるからそこ通してくれねェかい?」

「「「やだ!!!!!」」」

少年たちの声が見事にハモる

「…………。」

マルコの眼鏡の奥の細い目が死んでいる

マルコの苛立ちは頂点に達しそうだった


そもそもなぜマルコが島の少年少女3人に囲まれているのか

それは簡単な話だった

ニキは白い布を頭からかぶるだけというシンプルすぎるオバケの仮装で島のハロウィンに参加していた

だからマルコはオバケを見つければいい、と考えたのであった

バカでも考えれそうな探し方だが、生まれた時から世話をしてきたマルコはその長い月日を共にしているだけにニキの行動はすべてわかっていた

だからニキのすべてを踏まえて探し方を考えたところこういう結論になったのだった

ニキなら祭りが終わるまでお菓子をもらい続ける

たとえはぐれたのがわかっていても1人になったとしても!!!!

これがマルコの読みだった

しかしいざオバケの3人組を見つけ話しかけてみたところオバケの正体はボビーエレナのっぽメガネ

そして一応マルコがした五歳ぐらいのオバケの仮装をした女を見かけなかったかという質問に対しては、この少年少女たちは「知らない」と答えた

マルコはこれでまた別の場所に探しに行くつもりだった

が、しかし

「もしかして…よ…妖精!!!!?」とボビーがマルコの頭を見て叫んだことによって今のような状態になってしまったのだった

もちろん目の前にいるのはまだ子供

力ずくでのかして去るわけにもいかず正体を隠すために能力を使い空へ飛ぶということにもいかず……

「おれにどうしろってんだよい」

とうとうマルコは愚痴をはいてしまった

サッチやエースならいとも簡単に回避できるようなことだろう

なぜかあの2人は子供に慣れている面倒見もかなりいい

ただしサッチに関してはニキに対してのみ猛烈ドSなのだが……

「あいつらならガキ相手にどうやって言い聞かせるんだろうねい?」

「え!?何だよおっさん!!!」

「てめェにはなんも言ってねェよい」

「…………………。」

……ん?ちょっときつかったか?

ボビーは黙ってしまった

エレナとのっぽメガネも少し恐れた表情をしている

まったくめんどくせェ奴らだよい

マルコはそう思ったが、しかし

――いや……ちょうどいいじゃねェかよい

「おれはさっきから言ってる通り用事があるんでね…さっさと行かせてもらうよい」

マルコは黙りこくるボビーたちにそう一言言うと子供たちをのけて歩き始めた

ようやく解放

かと思ったが

――少し悪いことしたか?

マルコは黙る3人からだいぶ距離を置いたところで、子供たちの方へ振り返った

――仕方ねェ…

「…………?」

「……………」

「…………???」

3人はマルコを見ていた

そんな子供たちを見てマルコはため息をつき

そして


「違うって言ってたけどよい………おれは実はバナナの妖精だよい」


精一杯の笑顔で言った

「おっさん!!ほんとかっ!!?」

「やっぱりそうだったんだね!!!」

「す、すごいです!!!!!!」

子供たちの表情が一気に明るくなる

やれやれとマルコはまたため息をついた

これがマルコの精一杯

サッチがいたら笑い物だが、そんなのマルコにはどうでもいいことだった

相手はまだ子供。その子供たちが妖精と信じた自分を怖がってしまった

信じたものに裏切られる子供の気持ちは限りなく傷ついてしまう

結局理由はたったそれだけ

「バカにもほどがあるよい」

マルコは言った

それは妖精と言っただけで笑顔になった子供たちに対してなのか、はたまた自分に対してなのかどちらかはわからない

――ニキが産まれてからオレもお人好しになったもんだねぃ

マルコはそんなことを考えながら、こちらに向かって笑顔で走ってくる子供たちに追いつかれる前に路地を抜け、人ごみの中に姿を消した

「あれ?おっさんがいなくなった!!」

ボビーは先程までマルコがいた所でキョロキョロとあたりを見回す

「当たり前よ!!だっておじさんはバナナの妖精だもの!」

そんなボビーにエレナは自慢気に言った

「妖精なんて初めて見たよ。というよりヤシの木の妖精じゃなかったんだ………」

のっぽメガネは残念そう

「そうなんだよなァ。パイナップルだと思ってたのによー」

「エレナが正解でしたね」

「ヘヘッ♪」

エレナは少し照れながら笑った

そもそもなぜマルコはバナナを選んだのか?

パイナップルとヤシの木もあったのになぜあえてバナナの妖精になったのか?

それは一人の男としての最大のマナー、究極の常識

レディーファーストである









祭りのため賑やかな島

どこからどう見ても平和な街

しかしそんな島の本来の姿に1人の男のみが気づいていた

「何なんだ…この島は」

ジョズは1人つぶやいた

「ニキがやばいぞ…!!」

ジョズはニキ捜索中路地裏でとあるものを拾った

とあるもの―――それはこの島の新聞

その新聞の一面にはこう書かれていた


島の子供 また4人消える









全力兄貴4へつづく



after word

この島で実は起こっていることは一体なんなんでしょうね〜


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