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よくやったな(クラトス)
「…。」

「…私を見るな。」

クラトスは本日何度目かわからない溜息を吐いた。
このセリフも、何度目かわからない。

「でも、」

「ディセンダー、お前が学ぶべきは私ではないだろう。」

「でも、」

「私ではなく、前を見なさい。」

「…はい。」

クラトスはしゅん、と肩を落とした幼きディセンダーを横目に捉えながら、先程まで振るっていた剣を鞘におさめた。
レーズン火山の頂上、そこにバルバトスがいるという情報を受け、ディセンダーとクラトスはそこへと向かっていた。
ディセンダーとして確実に力を付け、既にクラトスの技量をも超えているであろうと、クラトスはそう感じていた。
しかし、それでもディセンダーは、クラトスを見ることをやめない。
戦闘をしている最中も、戦闘が終わった後も。
クラトスの評価を得ようとしているのもあるのだろうが、既に少女は高みへと昇りつめ、クラトスが評価することもできないほどである。

「クラトス。」

「なんだ。」

「私は、クラトスを見てはいけないの?」

ぎゅ、とクラトスの左手を握る、ディセンダーの手。
見上げる少女の瞳は、微かに潤んでいる。
初めての、ことであった。
今までディセンダーがクラトスの教えに反対を述べるような事はなかったというのに。
そこまでしてディセンダーがクラトスを見ることに固執するのは何故か。

「どういう意味だ?」

クラトスはディセンダーと目線を合わせ、握られた手を握り返した。
優しい笑顔(と思われる表情)を浮かべながら。

「だって、コレットが、」

「コレットが?」

「好きな人と一緒にいる時は、ずっとその人のこと見ていたくなるよね、って言ったから。」

クラトスは、再度溜息を吐いた。
それは恋愛感情なのか、それとも家族のように慕っている、という意味だろうか。
どちらにせよ、幼きディセンダーの成長を急ぐばかりでメンタル面を考慮していなかった自身の落ち度が、今回のことを招いてしまったのだ。
どうしたものかと思案していると、前方から人影がうっすらと浮かび上がる。
灼熱の炎の中、浮かぶ蜃気楼、そして揺らめく青の影。
バルバトスである。
ディセンダーはクラトスの手をそっと離すと、地面に置いていた大剣を手に取った。

「クラトス。」

ディセンダーはバルバトスをきつく睨みつけ、クラトスを見ずに言葉を発した。

「行ってくる。」

見なくてもわかる、その瞳は、ディセンダーというたった一人の少女ではなく、ディセンダーの光を宿した瞳なのだろう。
クラトスはわかった、と一言告げ、バルバトスに向かっていくディセンダーを見送った。
彼女をディセンダーとして育ててきたのは紛れもない自分ではあるが、ディセンダーであるということを除けばただの少女であるというのに、何と過酷な運命を少女に課せてしまったのだろうか。
遠くで自身よりも大きく重さのある大剣を振りまわす少女を見ながら、クラトスは自身の今までを恥じた。
ディセンダーが戦闘を終え、自身を見てくるのならば、今度こそは受け止めよう。
そして、少女の頭に手を載せて、こう言うのだ。
よくやったな、と。










2009/10/31 ゆきがた

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