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螺旋階段の攻防



■ピオ→ジェイルク。軽く大人向けっぽい表現があります。















「なぁ、ルーク。俺のものにならないか。」




その一言に、ルークは歩みを止めた。言葉を発した男は、止まることなく階段を上り続ける。屋上へ続く螺旋階段にいるのは、二人だけである。夜の冷たい風がどこからともなく舞い込む。上着をしっかりと着込んだ男と違い、ルークはパジャマ一つである。体中がぶるりと震えあがった。




「どういう、意味でしょうか。」



「そのまんまの意味さ。」




やっと、前を歩く男が歩みを止めた。振り返った男の金髪が、さらりと揺れた。光の少ないこの場所でも、金の髪は輝いていた。眩しい。耐えられなくなって、視線を足元に送る。




「それとも、アイツの方が好きか?」




その問いに、ルークは口を噤む。脳裏には、一人の軍人が描かれている。蜂蜜の髪をさらりと流し、レンズの奥に鋭い紅を持つ、青の軍人を。かつん、かつん。音に気づき顔を上げれば、すぐそこに男の顔が迫っていた。怖い。逃げ腰になるが、階段を踏み外してしまう。バランスの崩れた身体。衝撃が来るのを目をつぶってやり過ごそうとするが、目の前の男がそれを許すことはなかった。腰にしっかりと回された手。目を開けると、男が真剣な瞳でこちらを見ていた。




「こんなにも、お前が愛しくて、仕方がない。」




男の唇が、額に降り注ぐ。抵抗しようと男の身体を腕で押し返そうとすれば、掴まれ、力技で壁に追い込まれる。




「・・・っ!」




背中への衝撃の次に、唇に温かいものが押し付けられる。侵入しようとしているものが怖くて唇をしっかりと閉じるが、遠くから聞こえてきた足音に驚き、唇が開く。身体中を痺れさせる甘く激しいキスに、力が抜けていった。ずるり、と座り込んだルークを、男は上から見つめている。その間にも、足音は近付いてくる。




「こんな姿のお前を見たら、アイツはどう思うだろうな?」



「・・・。」




そっと伸ばされる手を払い、身体を守るように抱きしめる。




「・・・嫌われたもんだ、なぁ、ジェイド?」



「何をしているんですか。」




声のした方を見れば、先ほど思い描いた軍人が、ジェイドがいた。レンズの奥に光る紅の瞳は、怒気を含み男を見据えていた。震える身体を叱咤し、ルークは立ち上がり、ふらふらとジェイドへ歩み寄ろうとするが、腕を掴まれ、男に引き寄せられた。後ろ抱きにされているために、後ろにいる男の表情はわからない。




「ルークを離しなさい。」



「嫌だ、と言ったら?」



「・・・いい加減にしろ、ピオニー。」



「おお、怖い怖い。これがアイツの本性だぞ、ルーク。」




男は、ピオニーは笑った。それとは対照的に、下に見えるジェイドは口も目も笑ってはいなかった。




「や、やめてください。俺は」



「なんだ、ジェイドには何度も身体の隅々を見せつけておいて、俺には一度だけか?」




その言葉に、ジェイドは驚いたような顔を見せる。滅多に見ることのない、焦った表情が、ルークの心を絞めつけた。




「そ、それは違います!」



「・・・条件を飲んだのは、ルーク、お前自身だ。」



「ふあっ・・・。」




耳にそっと囁きかけるピオニーの声音は、優しさの中に恐怖を持っていた。ふっ、と息を吹きかけられ、耳を滑ったものが撫でる。反応する身体。それが今は、恨めしかった。




「ちゃんと躾けられてるんだな。」



「ルークを離せ。」



「断る。」




いつの間にかジェイドの手には槍が握られている。だがピオニーは、それが自分を貫くことはないと知っている。しかし、ピオニーの確信のジェイドの想いもわからないルークは、このままでは二人が殺し合いを始めるのではないかと気が気でなかった。とにかく、ピオニーの中から逃げ出さねば、と思い立ち、暴れないルークに安心しきっていたピオニーの腹に肘を押しこんだ。




「っぐ・・・!」



「ご、ごめんなさい!」




踏み出された一歩。半ば飛び込むような形のルークを、ジェイドは確かに受け止めた。薄いパジャマ一つのルークは、少し冷たかった。




「どういうことですか。」




冷やかな声が、頭上から響く。潤んだ瞳を向ければ、ジェイドが消毒だと言わんばかりに髪に口づけをする。




「だって、陛下が、ジェイドの昔の写真をやるから、代わりに一緒にジェイドを驚かせろって・・・!」




「・・・はい?」




気の抜けた声が響く。小動物のように震えて怖がるルークをよそに、階段の先にいる男は腹を抱えて、笑っている。




「くくく・・・あっはっはっはっ・・・!!!」



「簡単な演技だって言って打ち合わせしてたのに、あそこまでするとは思わなかったんだ!ジェイド、ごめん!」




瞳から涙をぼろぼろと零し、ルークはジェイドの胸で嗚咽を漏らし始めた。屋上へと続く螺旋階段に、男の笑い声と子供の泣く声が響き渡った。








「へーいーかー?」



「悪かったな、軽い冗談だよ、冗談。」




泣いて許しを請う子供を寝かしつけ、ジェイドは私室でブウサギ達とのんびりとしていたピオニーに詰め寄った。笑って誤魔化すピオニーだったが、ジェイドは鋭い眼差しを向ける。




「本気で、ルークに悪戯しましたね?」



「なんのことだかわからんな。」




しれっ、とするピオニーに、ジェイドは槍を向ける。切っ先がピオニーの喉元に当てられるが、ピオニーは平然としている。




「貴方に、ルークは渡しませんから。」



「お前がぼやっとしてるから、俺に簡単に取られるんだ。」




冷たい空気が流れ、沈黙が辺りを支配した。睨み合う両者であったが、先に動いたのはジェイドであった。




「失礼します。」




一言告げると、ジェイドは部屋を後にした。ばたん、と力強く閉められた扉。痛いほどの殺気が、未だ部屋に残っていた。ピオニーは部屋の隅ですぴすぴと眠るブウサギのルークを抱きしめ、溜息を吐いた。






2009/01/25 ゆきがた

(ブログで公開していたものを加筆修正。)


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