[携帯モード] [URL送信]
いつも隣にある温もり
■眠れないジェイドと、それを迎え入れるルーク。













深い闇が心を満たす。冷たくて、暗い、、ただの黒。闇の奥で、枯れた羽の天使が微笑んでいた。その事実から逃げたくて目を開ければ、小さな部屋の中で白い光りを輝かせる音素灯が、一気に現実へと引き戻した。規則正しい音を出す壁掛け時計を見れば、眠りについてからまだ2時間しか経っていない。溜息一つ。どうしたものかと思案した後に、ジェイドは冷え切った自身の部屋を静かに出て行った。





目の前の扉を二、三度叩けば、乾いた音が廊下に響いた。部屋の主は出てくる。確信はないのに、直感は確かにそう告げていた。もう一度扉を叩こうと手を持ち上げた時、扉はそっと開かれた。


「あれ、ジェイド。どーしたんだよ、こんな時間に。」


小さく開かれた扉から赤毛の少年が恐る恐る出て来る。ノックした人間がジェイドだとわかり安心したのか、ほっとした表情を浮かべていた。


「とりあえず、入れよ。寒いだろ。」


廊下の空気は確かに冷え切っていた。温かそうな部屋の中へ入っていくルークに続き、ジェイドも中へ入る。さほど温度は変わっていないのだが、それでも廊下よりは温かい気がした。そして、先程までいた自分の部屋よりも。


「若いっていいですねぇ。」

「んー?なんか言ったかぁ?」

「いいえ、なんでもありませんよ。それより、すみませんがシャワーを貸して頂けますかね。」

「全然構わないぜ。ホテルのなんだから、水道代とか気にならねーしな。」


にやりと笑うルークを見て、安心感を抱く自分がいた。ジェイドは落ち着いた気持ちでシャワールームへと向かった。





ぽたぽたと身体から流れ落ちる雫を大きなバスタオルで受け止めた後、バスローブを羽織ってベッドルームに戻れば、ルークはベッドの上で本を読んでいた。最近お気に入りの、絵本である。ホテルには客用に本が置いてあったりするのだが、ルークはその中にあった絵本(特にこの世界に纏わる伝承などのもの)をとても気に入り、ホテルに泊まる度に借りてくるのだ。


「面白いですか?」

「んー、これは前も読んだやつなんだけどな。二回読んだって損はねーわけだし。」


そう言って読んでいた絵本をパタリと閉じてほかほかとした湯気を未だ纏っているジェイドを見て、ルークは笑った。


「何やってんだよ、髪、濡れたまんまじゃねーか。」


ルークはジェイドを自分のベッドに座らせ、自分の首に巻いてあったタオルで髪を拭き始めた。わしゃわしゃと、多少乱雑に拭かれていくが嫌悪感はなかった。ある一定のところまで拭き終わると、次はくしを使って髪を梳き始めた。


「今日は至れり尽くせりですね。」

「たまにはな、いつもジェイドにやってもらうばっかじゃ悪ぃーだろ。」


いつもはジェイドが、雫をぽたぽたと垂らしてくるルークを見かねてあれやこれやとするのだが、今は逆であった。


「たまにはこういうのも、悪くないですね。」

「だろ?これで一緒に寝れば、眠れるようになるよな?」


その言葉に、身体が急速に冷えていくような感覚を覚えた。全てお見通しというわけですか。


「ってゆーか、俺も、正直眠れなかったんだ。最近ずーっとジェイドと一緒だったのに、隣にジェイドがいないって思うと、怖くて、眠れなかったんだ。・・・ジェイドも、俺と同じだって思って、いいのかな。」


後半の部分は恥ずかしさの為か声が小さかったが、ジェイドの耳にはしっかり届いていた。振り返れば、頬をうっすら染めたルークがはにかんでいた。自分もルークも、お互いに依存し合っているのだ。


「まったく、貴方には敵いませんね。」

「だ、だって、しょうがないだろ!いつもと違うと、やっぱ気持ち悪ぃーし。」

「ええ。・・・私は、貴方がいないとダメみたいです。」


そっと抱きついて肩に顔を埋めると、しばらくはおたおたしていたルークだったが、いつもと様子の違うジェイドに気付き、そろそろと腕を回した。


「一緒に寝ようぜ、ジェイド。」


背中を撫でられると、先ほどまでの悪夢がどこかへ消え去るような、不思議な温かさが伝わってきた。その温もりの主を抱きしめながら、ジェイドは眠りに落ちていった。




2008/12/04 ゆきがた



[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!