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キミを待つ、雨の中
■雨の中、出かけるルーク。













その日は、冷たい雨が降っていた。早々に宿を取った一行は、必要な買い出しを済ませた後、一人一部屋で休息を取っていた。だが、疲れた身体を休めようにも、時刻はまだ夕方である。眠る気にもなれず、かといって今すぐにしなければいけないことも特になく、ルークはただベッドの上でごろごろと転がっていた。


「なーんか暇だなぁ。」


普段はジェイドと一緒の部屋にすることが多いのだが、たまには一人一部屋にしようぜ、というガイの言葉にジェイドが賛同したため、ルークもそれに従っていた。心の中で、ジェイドが反対しないかな、という淡い期待を抱いていたルークは、少し寂しいような気持ちを覚えたものの、ジェイドも一人になりたい時があるということを知った。


「俺は、いつも一緒にいたいけどな。」


ぽつりと呟いた言葉を聞いたのは、それを発する自分だけ。静寂の中に吸い込まれていった言葉を、本人の目の前で言うことはない。


「ジェイド・・・。」


ジェイドと一緒にいる時の事を思い出せば、身体が徐々に熱を帯びていく。自分を呼ぶ甘い声、優しい手つき、少し冷たい手。考えれば考えるほどに熱を帯びていく身体を止めようと、ルークは立ち上がり、部屋から飛び出した。





絹の糸のような雨が、宿から飛び出したルークを受け入れる。雨の冷たさが火照った身体に心地よく染み込んでいくので、傘を取りに戻るか、という考えはすぐに消えていった。出歩く人は少なく、家々からは温かな光が漏れている。まるで外の世界が自分だけのものになったような錯覚。不思議とルークの心は弾んでいった。気がつけば、身体はどこかに向けて走り出していた。水を撥ねる音すら愛おしく感じたルークは、衣服が汚れるのも気にせず、走ったり、スキップしたり。雨の日がこんなに楽しいとは思わなかった。先ほどまでの考えはどこへ行ったのやら、ルークは純粋に外の世界を楽しんだ。ふと辺りを見渡せば、沢山の深緑がルークを迎え入れる。走り回っているうちに、公園に辿り着いたようだ。


「うっわ・・・。」


見上げれば、まるでルークを守るために作られたかのような木々のアーチがあった。優しく包み込まれるような温かさを感じたルークは、木々のアーチの中をゆっくりと歩く。耳を澄ませば、さわさわと雨が木の葉に当たっている音がした。他にはどんな楽しいことがあるんだろう、と公園を隅々まで歩くと、屋根に守られたベンチに、一人の女性が座っていた。雨が止むまで待っているのだろうか、女性の手には傘がない。


「傘が、ないのかな。」


しかし、今の自分では彼女を助ける術はなかった。何かないだろうか、と考えていると、傘を差した一人の男性がベンチに座っている女性に近づいていた。女性は立ち上がり、笑みを零す。


(男の人が迎えに来るのを、待ってたんだ。)


幸せそうな笑顔を浮かべている二人は、一つの傘に入り、公園を出て行った。ルークはそれを見送った後、先程の女性が座っていたベンチに腰掛ける。幸せそうな男女の笑顔がルークの脳裏に焼き付いていた。自分も、ここで待っていたら誰かが迎えに来てくれるだろうか。


「・・・寒い。」


ぶるりと震えだした身体。急速に冷え込んでいく身体を抱きしめ少しでも温めようとするが、濡れた身体は中々温まらない。自分の為に迎えに来る者など、誰もいない。寂しさばかりが、募る。


「じぇーど。」


名前を呼んだところで誰も来やしないとわかっているのに、ルークの口からは誰よりも一番に来てほしい人物の名前が紡がれた。





「おやおや、何も言わずに出ていくような子に躾けた覚えはないんですがねぇ。」


少しおどけた声が頭上から降り注ぐ。顔を上げれば、優しい笑顔がそこにあった。


「じぇ、ど。」


「まったく、出ていく時は誰かに言いなさい。貴方の部屋に行ったら誰もいなくて、驚きました。」


身体を抱きしめていた腕を伸ばせば、ジェイドは傘を持っていない方の手でそれをつかんだ。勢いよく立たされ、そのままジェイドの胸に飛び込む。


「さぁ、帰りますよ。」


そっと、手が握られた。いつもは自分よりも冷たい手が、温かく感じられた。


「・・・うん!」


ありがとう。隣にいる人物と空に向かって、ルークは心の中で呟いた。




2008/11/26 ゆきがた


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