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繋いだ手と言葉を信じて(ピオルク子)
■ピオルク子。女体化につき注意!グランコクマに婚儀の衣装合わせの為に向かうルークとお付きのメイド。















「ルーク様、緊張なさってますか?」




首都グランコクマへ向かう船の中。両肩に下がる亜麻色の三つ編みが、ゆらゆらと揺れる。ルークのお付きのメイドは反対側で不安そうな表情を浮かべているルークに声をかけた。綺麗な亜麻色だなぁ、とぼんやりメイドの髪を見ていたルークは、メイドにかけられた言葉にハッとなった。




「あ、えっと、大丈夫だよ。綺麗な亜麻色だなぁ、って、見てただけだから。」



「お誉めにあずかり光栄ですわ。でも、ルークお嬢様の髪の方が、綺麗だと思いますけどね。」




眼鏡の奥にたたずむ瞳が優しげな眼差しを浮かべた。彼女はルークがレプリカとして生まれた時からずっといたメイドで、今回の婚儀を一番喜んでくれた人物の内の一人でもある。世界を救い、運命の闘いの二年後に再びこのオールドラントの大地に舞い戻ったルークは、以前からずっと恋仲であったマルクト皇帝ピオニーと婚儀を迎えることになった。婚儀はまだ先だが、その前に衣装合わせをしたいと言われ、ルークは慣れ親しんだメイドと二人マルクトに向かっていた。衣装合わせには、仕事の都合で結婚式に参加できないティアとアニスも見に来る予定だ。




「本当は、ピオニーが全部用意するからお前は身一つで来い、って言ってたんだけど・・・。」



「いいえ、お嬢様。先方が全て用意してくださるとしても、やはり慣れた者がいないと何があるかわかりませんわ。大切に育てたお嬢様を乱雑に扱う様なメイドがいたら、私が凝らしめてやりますから!」



「あ、ははは。それは、頼もしいな。」




しかし、実際にルークは助かっていた。今の段階でも、心細くて仕方がなかったのだ。自邸のメイド達は慣れているから、身だしなみに疎いルークに呆れることもなく、むしろ進んで好きなように身だしなみを整えてくれる。女性として、自身で自身の身だしなみに口をはさむことができないのをルークは気にしていたが、そんなルークをむしろ喜んで迎えてくれていたのだ。だが、これから向かうはグランコクマ宮殿。ピオニーに仕えるメイド達が嫌だというわけではないが、初めての人間というのは少々戸惑いを覚える。一人連れてきたメイドが、一緒だから大丈夫、と何度も自分に言い聞かせるが、しかし、不安は消えないのであった。










グランコクマに着いてすぐ、案内されたのはドレスルーム。メイドに連れられるがままに鏡の前に座らされ、メイクを始められた。連れてきたメイドは何故か別の部屋へと案内されてしまった。客扱い、というわけか。しかしこちらは、どうも客扱いされているようには、思えない。




「どんなメイクがよろしいですか?」



「えっと、あの。」




ルークは鏡越しに映るメイドが、さぞめんどくさそうな表情をしているのが目に入った。傍にいるメイドも、似たような表情だ。なんだろう、この雰囲気。不思議がっていると、鏡に映っているドレスルームの扉が半開きになっているのが見えた。数人のメイドが、好奇心と嫉妬の混ざった表情でこちらを見ている。




「あ、の。俺・・・じゃなくて私、いつも任せてるから、どういうのがいいとか、ないんだけど・・・。」



「かしこまりました。」




遠くからこちらを見ていたメイド達が、くすくすと笑う声が耳に入った。彼女達は恐らく、今まで数々の見合いを断わってきたピオニーが、一体どんな人間と結婚するのかが気になっているのだろう。嫉妬の炎を胸に宿らせながらこちらを見るメイド達。ルークは周りにいる人間が急に怖くなり、鏡を見ないようにと俯いた。自分を好ましく思っていない人物達が自身の身だしなみを整えているのかと思うと、急に胸が痛くなった。込み上げる涙。しかし、メイクをした後に涙をこぼしてしまえば、整えられたメイクも落ちてしまう。




「髪型はどんなのがよろしいんですの?」



「あの、思いっきり、アップに・・・。」




髪型についても聞かれ、しかし先程のような任せるような答え方はしたくなかったので、ルークは自身の意見を口にした。てきぱきと進められていく作業。早く終わらないだろうか、という気持ちを抱きながら、ルークはずっと俯いていた。










着替えも終わり、ルークはピオニーの待つ部屋へと案内された。高く結いあげられた髪に、真白のドレス、手元にはまるで今から結婚式を挙げんとばかりに花束が添えられている。二年前とは嘘のように、綺麗に仕上がったと、ルークは思った。仕上げた人物がどのようであれ、腕は確かなのだ。それは認めなければならない。だが、ルークの気持ちが晴れることはなかった。廊下を歩く間も我慢していた雫が零れ落ち、何とか堪え様と上を向き涙を流すまいともした。なんとかして涙を止めるが、依然目頭は熱いまま。今ピオニーに逢えば、その優しさと笑顔に安心して確実に涙を流してしまうだろう。そして、迷惑をかけてしまうのだ。嫌で嫌で仕方がなくて、メイク中も今も、逃げ出したくなる衝動がルークの心の中で渦を巻いていた。だが、そんなことをすれば、ピオニーに一層の迷惑がかかることもわかっていた。自分の涙を止める以外に、手段はないのだ。




「おっ、ルーク!やっぱ俺の選んだサイズに間違いはなかったな!」




部屋に入るなり出迎えたピオニーは、純白に包み込まれたルークを腕に収めようと手を広げ近づいた。そして、ありがとうと一言、微笑んだ顔で述べたルークの瞳が赤くなっているのが、目に入った。何かがあったのだと、すぐにわかった。だが、それでも尚笑みを浮かべているルークに、原因となったであろうメイド達の前では何も聞けない。




「お前たちは下がれ。ご苦労だったな。」




労いの言葉をかけメイドを下がらせると、ピオニーは近くにいた兵士に用を頼み、ルークを連れて私室へと入った。連れていく際に握った手が、強く握り返される。




「あの、ピオニー。」



「いいから、黙れ。」




ピオニーは言葉を紡ごうとしたルークを胸に収め、背中をそっとさすった。次第に震えだす小さな身体。あやすように、そっとそっと、さすり続けた。




「・・・こ、わかった。」



「ん?」



「怖かったんだ。俺、メイクとかそういうのわからなくて、任せようと思ってきたんだけど。本当は、何か言わなきゃいけなかったのかな。自分で自分のこと、分かってなきゃいけなかったのかな。」



「そんなことない。ルークはルーク、人は人だ。」




胸に顔をうずめていたルークが顔を上げた。大粒の涙が、頬を伝い零れ落ちる。そんな姿も綺麗だと、ピオニーは不謹慎にも思った。指先でそっとその涙を掬いあげれば、くすぐったそうにルークは目を細めた。その拍子に、また涙が零れ落ちる。




「それに・・・なんか、俺みたいなやつがピオニーのお嫁さんなの、変なのかな。俺、可愛くないし、スタイルもよくない、髪だって綺麗じゃないし・・・。」



「・・・っ、ルーク。」




自身を自虐していくルークを見ていられずに、ピオニーはルークの唇を塞いだ。口紅が落ちてしまうと思ったのか、ルークはピオニーから離れようと身体を渾身の力で押すが、それに対抗するかのようにより強い力で抱き返される。




「あっ、はっ・・・、ピオ、ニー。」



「お前は、お前だ。俺はお前の全てを愛している。それだけでは不満か?周りが何と言おうと、俺はお前を離す気はない。やっと・・・やっと、お前を手に入れたんだっ・・・!」



「ピ、オニー・・・。」




再度唇が重なり合う。先程の荒々しさはなく、ルークも自然と受け入れていた。熱くなっていく身体だったが、瞳に宿った熱さは、次第に落ち着いていった。










繋がれた手と手。恥ずかしがることもなく、ピオニーはグランコクマ宮殿を歩いていた。ルークは兵士達やメイド達に見られるのを恥ずかしがっていたが、俺がいるから大丈夫だ、と言ったピオニーを信じ着いて行った。やがて、先程のドレスルームへと辿り着く。




「おうっ、悪いが化粧直し頼むな。」



「かしこまりました。」




返事をしたのは、キムラスカから共についてきた亜麻色の髪のメイドだった。両手にメイク用品を持ち、彼女はにこりと笑った。




「さぁ、お嬢様。キムラスカ仕込みのメイクをたーっぷりしてあげますわ。あらあら、整えた髪の毛が崩れてるじゃありませんか。まったく、陛下、式を挙げる前の女性にあまり手を出してはいけませんわ。」



「はっはっは、すまんな。」




矢継ぎ早に話しながらルークの化粧直しを始めた彼女を周りにいた先程のメイド達は驚きながら見ていた。ルークは周りの目が多少気になったが、今なら笑って挨拶もできる、と確信していた。自分は今、一人ではないのだ。




「はいっ、できましたわ。さっ、お嬢様。ティア様とアニス様がお待ちですし、急ぎましょう。」



「・・・うん。」



「よし、行くか。」




握られた手を、もう一度強く握り返せば、答えるかのようにピオニーのキスが頬に降り注いだ。堂々としていればいい。ドレスルームに行く前にピオニーが告げた言葉である。その言葉を、ピオニーを信じて、ルークは一歩、踏み出した。




2009/06/10 ゆきがた


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