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web拍手ログ その2(シンアニ)
08: セイヘロートゥデス(死神さんによろしくね)



冬空の下、アニスとシンクは人気のない公園を歩いていた。お互い、自分の居場所から飛び出してきたせいか、防寒具と言われるものが何一つなかった。それでも、会えるのならと思い一つで出てきた二人には、それは必要のないものなのかも知れない。現に、凍るような冷たい手が触れ、どちらからともなく手が握られていた。


「シンクの手、冷たい。」

「うっさいなぁ、お前だって冷たいだろ。」


繋いだ手がシンクの唇に当てられる。唇が軽く吸いつくような音が鳴り、その部分が急速に熱くなるような気がした。なんだか恥ずかしくなったアニスはこちらを見据えるシンクの視線から逃れようと目を逸らす。


「恥ずかしいんだ。」

「うるさいなぁ。」


なんだか悔しい気分になったアニスは、空いた手で鳩尾に一発喰らわせてやろうと拳を繰り出すが、いとも容易く受け止められてしまった。刹那、視線が交わる。


(あ、やばい。)


そっと近づく相手の顔が怖くてぎゅっと目を瞑れば、予想に反して何も起きなかった。そっと目を開ければ、ニヤニヤと笑みを浮かべたシンクがいた。


「何期待してんだよ。」

「ち、違うよ!」


ふぅん、と一言。愉快そうな笑みのまま、手が離された。温もりを失った手が、寒いと泣いていた。





公園の終点はすぐに訪れた。優しい時間が、終わろうとしている。


「あの、さ。シンク。」

「何だよ。」

「お願いがあるんだけど。」


服の袖をぎゅっと掴む。目を見るのが怖くて、視線を上げることができなかった。それでも、今言わなければいつまでも言えないままになってしまうと、わかっていた。


「もう、会うの、やめよう?」


その一言を発するのが、どれほど辛いことか。口にした瞬間、心臓は止まるのではないかと思うくらい凍てついていく。呼吸がうまくできない。ぐらりとふらつきそうになる身体を、精神で抑え込む。


「私はシンクを、シンクとして見れないよ。イオン様と、重ねちゃうんだよ。」

「知ってるよ。」

「大体、敵同士だし。」

「そうだね。」


静かに、それでいて強い口調に、恐怖を抱く。抱いた恐怖は、目の前の人物に対してか、自分の言葉に対してか。


「だから、さよなら。」


霞んでいく目の前を拭いもせずに、背を向けて走り出す。


「ボクは、諦めないからなっ!」

「・・・!」


後ろから聞こえてきた声に、アニスは思わず足を止めた。しかし、振り返ることができなかった。


「ボクは、アニスが好きだっ!」


その言葉に、ずっと胸に秘めていた言葉が、アニスの喉元へ押しかかる。涙がぼろぼろと目から溢れ出したのを頬に感じ、アニスは叫んだ。


「私だって、好きだよ!大好きだよ!シンクが、大好きだよぅ!でも、ダメなの!」


吐き出された言葉は確かにシンクに届いているのに、二人の距離は縮まらなかった。どちらも、歩み寄ることができなかった。それは、お互いの立場をよく表していた。今すぐ抱きしめてほしい。そっと抱き寄せて、大丈夫だよ、と言ってほしい。しかし、その望みが叶わないことを、アニスはよく知っていた。身体が寒さで震えだす。怖くて、逃げだしたくなって、また走り出す。


「ボクは死なない。例えアニスと戦うことになっても、ボクは死なない!だけど、アニスを死なせはしない!」



意味分かんないよ。そう返そうとした言葉は、相手に届くことはなかった。










セイヘロートゥデス。
(死神さん、私はあの人を、殺したくないの。)







2008/12/07 ゆきがた







お題:ユグドラシル

君を巣食う10のお題



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