web拍手ログ その1(ピオルク)
05: 君と同じ世界には行けない
昔々ある所に、優しく、そしてとても美しい娘がおりました。大変仲の良い両親と暮らしておりましたが、母親が亡くなってしまい、父親が再婚した母親と二人の姉と暮らすことになります。ところが、この母親と二人の姉は揃いも揃っていじわるな人間だったのです。新しい母親は、少女が二人の姉より美しいことが気に入りません。
「ふん、なんて醜い子なのかしら。」
そうして、三人は辛い仕事を全て、少女に押しつけるようになりました。寝床は粗末な藁布団、着るものは継ぎはぎだらけ、お風呂に入ることも許してもらえなかった為に、少女の頭にはいつも、かまどの灰が、付いていました。
「そうしていると、まるで灰かぶりね。」
「今日から貴女の事は、シンデレラと呼びましょう。」
そうして少女は、三人にシンデレラと呼ばれるようになったのです。
「父親はどこ行ったんですか?」
「父親、なぁ・・・。なーにしてんだろうな。」
「え、書いてないんですか?」
「・・・そーゆーのは創造にお任せします、だ。」
ある日のことでした。お城の王子様が結婚相手を選ぶ為の舞踏会を開くことになり、シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届いたのです。シンデレラはまるで自分のことのように喜び、姉たちを送り出しました。しかし、シンデレラは本当は羨ましかったのです。姉達がいなくなった後、シンデレラは悲しくなって涙を流しました。
「私も、舞踏会に行きたい・・・。」
「泣くのはおよし、シンデレラ。」
涙を流すシンデレラの前に、眩い光を纏った妖精が現れました。
「よーせーって何ですか?」
「妖精、かぁ。うーん・・・。」
「ジェイドより優しいですか?」
「あれは悪魔だ、鬼だ。妖精は天使のようなものだと思え。」
「はーい(おにってなんだろう。)」
「シンデレラ、お前はいつもいい子ですから、ご褒美に舞踏会に行かせてあげましょう。」
妖精は杖を振りかざし、あっという間に馬車、白馬、御者を用意しました。そして仕上げに、シンデレラの服に杖をかざすと、優しい光がシンデレラを包み込みます。みすぼらしい服はたちまち美しいドレスに変わり、足元には小さくて綺麗なガラスのクツがありました。
「シンデレラ、楽しんでおいで。でも、私の魔法は十二時には解けてしまうの。それだけは覚えておいてね。」
そうしてシンデレラは、お城へ向かいました。
「妖精って、意外に力ないんですね。」
「あー、それは突っ込むな。」
お城の大広間に現れたシンデレラ。その美しさに辺りはシーンと静まり返りました。きょとんとしているシンデレラの前に王子が進み出ました。
「僕と、踊っていただけますか?」
「・・・はい、喜んで!」
楽しい時間はあっという間です。王子と踊ることに夢中になっていたシンデレラがハッと気づくと、時計の針はもう少しで十二時になりそうです。
「ごめんなさい、私、行かないと・・・。」
突然、シンデレラは王子の元を離れます。ぺこりとお辞儀をすると、シンデレラは階段を駆け下りていきます。その時、慌てた拍子にガラスのクツが片方、脱げてしまいます。しかし、取りに戻っていたら魔法が解けてしまいます。そのことを恐れたシンデレラは、一度振り返るものの、馬車へ駆け込み、急いで家へ戻りました。
十二時を告げる鐘が鳴った。
「・・・あ。」
「おっと、もうこんな時間か。」
ピオニーは持っていた本をぱたりと閉じると、それを本棚に閉まった。話に夢中になっていたルークはその動作をぼんやりと見ていたが、ピオニーに髪をくしゃくしゃと撫でられることによって現実へと引き戻された。
「良い子は寝る時間だぞルーク。でないと、明日出発する時に俺がジェイドに怒られる。」
「わかりました。でも、あの・・・。」
「ん、なんだ?」
「シンデレラは最後、どうなるんですか?」
「あぁ、王子がガラスのクツの持ち主を探しに行って、シンデレラに出会う。履かせてみればぴったり。結婚してシンデレラはお城に連れていかれました。めでたしめでたし、だな。」
その言葉を聞いて、そっか、と嬉しそうに笑みを浮かべた少年は、すぐにその表情を曇らせる。
「・・・どうした?」
「いえ、羨ましいな、と思っただけで。」
苦笑いを浮かべたルークを引きよせ、そっと抱きしめる。確かにそこにある温もりが、今にも消えるんじゃないかと錯覚を感じさせる。馬鹿な事を言うな。かけられた言葉に、ルークは何も答えなかった。
君と同じ世界には行けない
(今ある温もりも、魔法が解けたら終わりかもしれないんだ。)
2008/12/29 ゆきがた
お題:ユグドラシル
君に巣食う10のお題
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