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あなたから伝わる温もりを



■ジェイルク前提の、ED後。帰還したルークはルークではなかった。日に日に病んでいくジェイドは・・・。

※ジェイドが他の女性と結婚しているのが許せない方は、ブラウザバック推奨。















セレニアの花が風で一斉に舞い上がった時、その少年の顔がはっきりと見て取れた。外見上は何も変わらないというのに、その人物はルークではないと、心が警鐘を鳴らしていた。それをわかっているからなのか、遠くで風に真紅の髪を遊ばせている少年は、何も言わなかった。それは、ジェイドがかつて愛したルークとの、決別を決意した日であった。










心は日に日に病んでいった。その事に一番最初に気が付いたのは、さすがと言うべきか、毎日のように顔を合わせているピオニーである。常と変らぬようにと演技をしていたというのに、あっさりと見抜いてしまうのだから、助かると言うか、侮れないと言うか。ある日、ピオニーはジェイドを自身の私室へ呼びつけると、ブウサギの中から二匹抱き上げ、ジェイドに押しつけた。




「俺はやサフィールの世話で大変だ。だからお前が世話をしろ。」




基本的にメイドに世話を任せている人間が言うとは思えないセリフであったが、皇帝命令だ、と言われれば逆らえない自分がいた。それほどまでに、ジェイドは飢えていた。ルークという存在に。あの眩しく優しい光を与えてくれた、ルークという存在に。それを見越してか、渡されたブウサギの名はルーク、そしてジェイド。腕の中で大人しく眠るブウサギを抱え、いそいそと付いてくるブウサギと共に帰路へついた。一人では広すぎる屋敷が、急にうるさくなったように感じた。










「うっわー、可愛いー!」



「そうだろう、そうだろう。」




ピオニーの私室呼ばれてから数時間戻らないルークを迎えに来てみれば、案の定、陛下ご自慢のブウサギと戯れている途中であった。一匹のブウサギを愛おしそうに見つめるルークは、扉付近で呆れているジェイドに微笑んだ。




「ジェイド、って言うんだって。」




言われなくとも勿論わかっているのだが、なんだか無性に腹が立っている自分に気付いた。可愛いジェイドだの、お前は可愛くないだの、散々に言うピオニーに腹が立つどころか呆れているのは毎度のことであるが、ルークに腹が立ったのは初めてのことである。だが、ルークがしていることはただピオニーの私室で自身と同じ名のブウサギをその腕で抱いているだけのことなのだ。なのに、何故だかそれが妙に気に食わない。




「行きますよ、ルーク。」




表情のない顔で、ただ淡々と言葉を告げられたルークは、ピオニーと自身が抱いているブウサギに目をやってから、くすりと笑みを零した。




「うん、今行くよ。じゃあな、可愛い方のジェイド。お前と同じ名前の人は、本当に可愛くないよなー。」




そっとブウサギを床に戻すと、ルークは小走りでジェイドに近付く。小さな手が、ジェイドの手に触れた。答えるように握ってやれば、ルークは少し背伸びをして、ジェイドの耳元で囁いた。




「ぎゅっとするのは、宿に戻ったらな。」




何もかもを見透かされている気がして、ジェイドは急に体中が熱くなったような気がした。恥ずかしさを紛らわしたくて、ジェイドは後ろで笑っているピオニーすらも無視して、ルークを引っ張って行った。悔しくなって、えへへ、と頬を染めたルークの頬にキスをしてやった。










ブウサギ達との生活は、とても優しい時間であった。仕事で忙しい日は朝と夜しか顔を合わせないというのに、ブウサギ達はジェイドによくなついた。仕事がない日は一日全てをブウサギ達と過ごすのだが、どこへ行くにも付いて行き、突然の呼び出しで王宮へ出かけようとすれば、付いて行きたいとせがむのであった。(純粋な眼差しで見上げられては、さすがのジェイドも家に置いていくことができないのだ。)




「ルーク。」




そう呼べば、ブウサギのルークは必ずジェイドの元にかけつける。足もとにすり寄り、常にジェイドの傍に在ろうとした。まるで、どこにも行かないよ、と言われているようで、ジェイドは益々ブウサギを愛すのであった。しかし、ブウサギとの時間がどれほど大事であろうとも、何日も家を空けなければいけない時は来るのだった。どうしたものか、と思案していると、ピオニーの計らいで一人の女性がジェイドの自宅を訪れた。




「ピオニー皇帝陛下に頼まれまして、ジェイド様が長くいらっしゃらない時は、私が住み込みでブウサギの世話をいたしますわ。それ以外は、朝に来て、夜に帰りますね。」




長い髪をみつあみにした、深紅の髪を持つ女性であった。初めの内は、信頼の置けない者を自宅に住みこませる事に抵抗を覚えたが、何気ない彼女の一言でジェイドの心は一転するのであった。




「貴方のご主人はとても素敵な方ね。あなたを見ていると、よくわかるわ。ね、ルーク。」




それは、ジェイドが帰宅し、女性が代わりに帰ろうとした時であった。ブウサギに優しく語りかけるその姿が、似ていたのだ。かつて愛した、少年に。




「あ、ちょっとジェイド、ルークに触ったからってそんなに怒らないで頂戴。まったく、貴方はやきもちさんね・・・って、ああ、すみません!ジェイド様の事ではないんです・・・。」



「いえ、構いませんよ。今さら名前を変えては、彼らの方が混乱してしまいそうですから。」



「良かったわね、ジェイド。ごめんなさいね、もうルークと一緒に行っていいわよ。」




その言葉を聞いて、ジェイドはルークを連れてとことこと移動を始めた。その様子を見守ってから、女性はジェイドの方を向き、今日のブウサギ達の様子を話して帰宅しようとした。その時、何故そうしたのか自分でもわからないほどジェイドは混乱していた。帰ろうとする女性の手を、掴んだのだ。




「ええっと、どうかなさいましたか?」




振り向いた女性は、すっかり混乱しきった表情を浮かべている(実際にはそこまで表情の変化はないのだが)ジェイドを見て、暫くするとくすりと笑った。柔らかな手がそっと伸びてきて、ジェイドの頭をそっと撫でた。




「ジェイド様がやきもちするだなんて、知りませんでしたわ。」



「あの、いえ、私は・・・、その。」



「とりあえず、お茶でも淹れましょうか。まだそこまで遅い時間でもありませんし。」




そうしてジェイドは気付いたのだ、女性を愛してしまったことに。独りと二匹の生活が、三人と二匹の生活に変わるまでに、そう時間はかからなかった。










「ジェイドの手って冷たいよなー。少しは俺を見習えっつーの。」



「見習おうと思って温かくなるものではないと思いますが。」




冷たいと言いつつ、ジェイドの手を愛おしそうに握るルークの手は、ジェイドとは反対にとても温かい。




「じゃあ、俺の温度少しわけてやるよ!そしたらジェイドも、暖かいよな。」




へらりと笑い、ルークは手を離しジェイドの胸に飛び込んだ。そっと抱き返せば、子供特有の温かさがジェイドに染み込んでいく。心地よい温もり。それを一生離すまいと、ジェイドは強く抱きしめた。










「(でも、ね、ジェイド。もし、もしもだよ。俺がいなくなっても、ジェイドは幸せになってくれよ。それが俺の、一番の望みだから。)」










部屋の外は、やけに空気が冷たかった。看護師に廊下で待機です、と言われ締め出されてから数時間。中から聞こえる苦しそうな声に、何度も胸が張り裂けそうだった。とっくに四十歳を過ぎたというのに、この落ち着きの無さはなんだ、と自身を叱りつけるが、それでも感情のざわめきは落ち着かないのであった。




「(力を、貸して下さい。)」




願う相手は第七音素か。祈るという行為を自然としている自分がおかしかったが、祈らずにはいられなかった。そして、中から、この世界に誕生したと主張する声が、聞こえてきた。




「おめでとうございます、立派な男の子ですよ。」




部屋に通されると、生まれたばかりの赤子を抱く女性に駆け寄り、そっと赤子ごとそっと抱きしめた。




「よく・・・頑張りました。」



「私より、貴方の方がお疲れのように見えますがね。」




くすりと笑われ、ジェイドは少し恥ずかしくなった。話題を変えられないものかと、生まれたばかりの赤子を見れば、小さな手が目に入った。小さな、小さなその手に自身の人差し指をそっと近づける。




「あら、この子・・・。」




指を、きゅっと掴まれた。優しい温もりが、人差し指を通してジェイドの中に広がっていく。




「笑ったわ。」




それは、ほんの一瞬のことであったが、確かに赤子は、笑ったのだった。




「・・・名前は、私が名付けてもいいでしょうか?」



「ええ、勿論ですよ。でも、同じ名前が二人もいると、呼びにくいわね。」




ふんわりと笑った女性は、ジェイドの胸の内を悟っていた。










「ルーク。」










そう呼びかけると、掴んだ指をもう一度、強く、強く握られたような、そんな気がした。




2009/05/12 ゆきがた




(ブログで公開していたものを加筆修正。)

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