必要
■ジェイドとネビリム先生と嫉妬ルーク。
この銀世界で死ねたなら。
永久に貴方と共にいられる気がしたから。
『ネビリム先生』はルークの中で不安を生み出す原因の一つである。ジェイドの過去を知る人物として、ジェイドの恩師として、彼の心を大きく占めているのではないだろうか。ルークはそれが、羨ましいような悔しいような複雑な感情を抱いていた。ジェイドがいくら『ネビリム先生』の事を思っていないように振舞ってはいても、ジェイドと共に『ネビリム先生』をレプリカとして生き返らせようとした六神将のディストが『ネビリム先生』と言えば、ルークの中の不安は増していくのだ。
降り積もった雪が、ルークを抱きしめた。ジェイドの生まれた街、ケテルブルク。夜、ホテルから一人抜け出し外に出たルークは、足跡のついていない雪原が綺麗で、まるで布団に飛び込むように倒れこんだ。後頭部が冷たくなっていったが、頭を冷やすには丁度いいだろうと勝手に決め込み気にしないことにした。夜空には雲一つなく、月と星が輝いていた。いつか自分も、あそこに還るのだろうか。しかし、愛した彼と逢えなくなるのは、嫌だ。
「何をっ、して、いるんですかっ!!」
まるでこれから眠ろうと言わんばかりに目を瞑ったルークを何者かが引っ張りあげる。よく、聞きなれた声であった。
「じぇ、いど。」
「こんな所で倒れこんで、凍死したいんですかっ!」
ルークは嬉しさと哀しさがない交ぜになった感情を抱いた。今一番逢いたくて、一番逢いたくない人物なのだから。その感情を知ってか知らずか、ジェイドは起こしたルークを抱きしめた。少し、震えていた。
「ジェイド、ごめん・・・。」
「・・・この地で、貴方まで死なれたら。」
ぽつりと漏らされた言葉をルークは聞き逃さなかった。やはり、『ネビリム先生』の存在は今でも大きいのだ。ルークはジェイドを抱きしめ返すことができなかった。俺はここにいるよ、安心して、と言いたかったのに、思いは別のことに支配されていた。
「そんなに、ネビリム先生は大事だった?」
考えたことが咄嗟に口から飛び出してしまった。しまった、と思ったが、ジェイドが聞き逃すはずはなく。ジェイドはルークから少し身体を離し、真正面からルークを見つめる。深紅の瞳を見つめるのに抵抗を感じたルークは目をそらす。呆れたり、怒ったり、そういう反応を想像していたが、実際のジェイドの反応はルークの考えているものとは違った。
「・・・ルーク、貴方もしかして、嫉妬してます?」
「・・・。」
顔がかーっと熱くなる。そう、それは嫉妬。しかしルークはその感情を見て見ぬ振りをしていた。まるで、自分が汚く醜い人間のように思えて、怖くなった。
「ごめん、嫌な奴だよな、俺。」
「いえ。まったく、貴方という人は。」
ジェイドは再び、強く、そして優しく抱きしめてきた。この温もりの元に、いつまでも、いつまでも、居たいと願った。
「ネビリム先生は私の恩師です。しかし、貴方は、私の、一番大切な。」
言葉はそこで途切れた。心なしか、伝わる心臓の鼓動は、早い。その先の言葉を、ルークは聞きたくなかった。自分はレプリカであり、生きてはいけない存在なのだ。
「(でも、ジェイドが必要としてくれるなら、俺は。)」
誰よりも生きていたいと、願う。
寂しい想いは、ジェイドだって嫌なはずだから。
2008/02/04 ゆきがた
(ブログから再録)
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