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音と光の洪水。
ステージの中央で茅瀬 湊(かやせ みなと)は押し寄せる波に身をゆだねた。
熱い。
堪らなく、狂おしく。
灼熱が全身を駆け巡り、今にも意識が吹き飛びそうだった。
右足首が脈打ち、痛みが脳天を突き抜ける。だが、それすらも全身に渦巻く熱に凌駕され、痺れるような疼きへと変わっていった。
歓声が巨大なホールを揺さぶる。埋め尽くす人の熱気は、彼らが身の裡から発する歓喜と狂喜そのものだった。
自分の鼓動と重なる歓声に湊は陶酔する。
音に抱かれる瞬間。これこそが極上の快楽なのだと思える。
湊はマイクを下げた。大きく息を吸い込む。
歓声で埋め尽くされたはずのホールが、水を打ったように静まった。
ただひとつ響く極限までのシャウト。
3階席にまで届く肉声がホールを揺るがす。
湊が声を出し終えた一瞬の後、それまでにない大きな歓声がホールを埋め尽くした。
湊たちがステージをはけてからも歓声は鳴り止まない。
いくつもの声はやがてアンコールの嵐へと取って代わる。
袖口で横たわり荒い呼吸を繰り返す湊は、うっとりと呟いた。
「アンコール、出るよ」
表情が歓喜に彩られている。
「待ってください湊くん。こんな状態じゃ無理ですよ」
「無理……つっても聞かねーから、こいつは」
慌てる専属マネージャーの肩を、ギタリストのゼロが押しとめた。
「1度言い出したら止められない。……だろ?」
ゼロの問いかけに、湊はうんと頷いてみせる。
ふたりの様子を見守っていたメンバーもスタッフたちも、それぞれに「仕方ないな」という顔をして苦笑を洩らした。
湊の我が侭に勝てる者など、誰ひとりとして存在しないのだ。
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