番外編
Ver.柾斗
「こんにちはー。」
部活帰りに寄るのが日課となってしまった店の見慣れた扉を開ける。すると、中にいた“狂”のメンバーが一斉にこっちを見た。
「川上さんっ!待ってましたぁぁ!!」
飛びつかん勢いで近くにいた“狂”のNo.3の結城さんが近寄ってきた。
「え?な、何ですか?」
「ま、柾斗さんがまた怜一さんの居ないのを良いことに“黒猫”に行っちゃって…!」
お、俺止めたんスけど…と結城さんが泣く。この人は“狂”の中で一番の苦労人だろうなぁ。
「…分かりました。池上先輩達のとこ行ってきます。」
ため息を吐きながらそう言えば、結城さんを含め皆の顔が一気に明るくなった。
「ありがとうございますっ!!」
俺はスポーツバッグをテーブルに置き、中からバスケットボールを取り出し、それだけ持って扉に向かった。
「では、行ってきますね。」
「いってらっしゃい!お願いしますっ!!」
一糸乱れぬ声に送り出されて徒歩数十秒の“黒猫”に向かう。
**
「さっさと智也を離せ。」
「だーかーら、お前が俺と遊んでくれんなら離すぜ?」
「いい池上先輩っ!シュウさんに店の中壊したらコロスって言われてるから駄目ですよっ!!」
「うっせぇぞ、チビ猫。黙んねぇと犯すぞ。」
「犯す…?」
「うぁぁぁ!!せせ先輩!黒いっ。なんか気配が黒いからぁぁ!!」
………はぁ、
柾斗によって破壊されたらしく、扉は留め金が吹っ飛んで無くなっていた。中を覗けば殺気立った池上先輩と、柾斗に後ろから抱きしめられてあわあわしている智也がいた。
巻谷先輩と住吉先輩は我関せずだ。
いつも通りの光景にもう一度ため息を吐き、手に持っていたバスケットボールを全力で柾斗の後頭部目掛け投げ付けた。
「っだ!!!」
後頭部の衝撃で、頭を抱えて悶絶している柾斗から智也は慌てて逃れ、こっちを向いた。
「仁志ぃぃ!!!」
そう言って俺に抱き着いてくる。腕を広げたまま固まる池上先輩が可哀相だ。
「毎度毎度悪いな。」
智也の頭を撫でる。
「仁志…テメェ。」
悶絶していた柾斗が回復したのか、きっと俺を睨む。隣でひいっと智也が縮み上がる。
「毎度毎度この俺の頭にボールをばかばかぶつけやがって…」
「ハイハイ。良いから戻るよ。怜一さん来たら、こんなんじゃ済まないよ?」
“怜一さん”に柾斗が言葉を詰まらせ、ちいさく舌打ちをした。
「はい、戻ろ?」
笑って手を差し出す。すると柾斗は立ち上がり俺に近寄ってきた。そうしてその手に俺が投げたバスケットボールを置いた。
それが合図だ。
柾斗はまだ何かぶつぶつ文句を言いながら“黒猫”から出ていった。
俺は後に続いて店を出る。その時、くるりと智也たちの方を振り向いた。
なんだっけ?
「仁志?どした?」
智也が首を傾げる。
「ええと、怜一さんにこういう時に言うようにって云われたのがあって……あ、」
「『うちの駄犬がお騒がせしました。』」
そう言ってぺこりと頭を下げて外に出る。半歩遅れて中から巻谷先輩のらしき爆笑が聞こえた。
婿探し終了!←
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