番外編
Ver.怜一
「怜一さん、」
生徒会室のドアを開けて、顔を出す。机に向かっていた怜一さんが、こちらを振り向き優しく笑った。
「部活、終わったんですか?」
「うん。やっぱりここの学校は広いね。」
迷った、と言う俺を怜一さんは手招きした。
一週間前、うちの学校の体育館が耐震工事のため使えなくなった。そこで一番近い怜一さんの学校の体育館を借りることになったのだ。この地区でかなりの強豪校なだけあって設備はかなり整っている。うちの学校も強豪校のひとつだから、こちらの監督も歓迎してくれている。
「今日もまたきっちりしごかれたんですか?」
「うん。もうくたくた。」
楽しかったけどね、と笑えば、怜一さんも微笑んだ。
「もう少ししたら終わりますから。」
「うん、大丈夫。待ってる。」
そう言えば、頭を優しく撫でられた。
俺は怜一さんの隣の机に座り鞄から雑誌を引っ張り出した。
眼で雑誌の文字を追いかけるが頭には一向に入って来ない。
ちらっと怜一さんの横顔を盗み見る。
この人が“狂”のNo.2なんだよなぁ…
進学校に通い、あまつ生徒会副会長なんていうのも熟しているのに、不良チームにも所属している。そうして俺の恋人でもある。そのことが今でも現実味を帯びていない。
自分の恋人ということもいまいちピンとこないが、“狂”のNo.2であることはもっとピンとこない。
何せ俺に見せる顔はいつも穏やかで優しい。多少黒い部分も見え隠れするが、不良チームの中心人物を想像できるような表情は見たことがない。
なぁんか、想像できないよなぁ。
一人首を捻っていると、隣からクスリと笑い声が聞こえた。
「どうしたんですか?一人で百面相して。」
「あ、いや…なんか想像できなくて。」
「何がですか?」
「怜一さんが“狂”のNo.2ってこと。」
「ああ。意外ですか?」
「だって俺、怜一さんの恐いとこ見たことないもの。」
「それは、当たり前ですよ。」
「え?」
「だって、好きな人に恐いところなんか見せて嫌われたくないでしょう?」
だから隠してるんです。
と悪びれた様子もなく言う。その姿に呆れながら頬を膨らます。
「仁志くん?」
「俺、怜一さんの恐いとこみたからって嫌いなったりしない。」
そう言えば、眼を丸くして笑い出した。
「怜一さん?」
「はははっ…やっぱり貴方は面白いですね。」
「…褒めてるか微妙。」
「褒めてますよ?貴方を好きになって良かったと再認識してるんですから。」
そう言って、俺の頬にちいさくキスをした。
「あと少しで終わりますから、そうしたら帰りましょう。」
極上の笑みで言う。俺は頬っぺたを押さえ真っ赤になりながら何も言えずコクリと頷くしかなかった。
→柾斗くん編
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