番外編
川上くんの婿探し Ver.巻谷
「あ、オハヨー。」
「………何で人ん家の食卓に馴染んですか。」
朝、眠い眼を擦り階下に起きて行くと金髪の綺麗な髪が視界に入ってきた。
台所に並べられた朝食を俺の席に着席し、巻谷先輩が頬張っていたのだ。
「小百合チャン、このお味噌汁美味しいー。」
「あら、嬉しい!まだまだ沢山あるわよっ。」
うきうきとお味噌汁を新たによそっている小百合チャンこと俺のハハオヤは、我が息子のことはアウトオブ眼中だ。
41歳のオバサンまで落とすとはさすがである。
「何で朝飯当たり前のように食ってんですか…」
朝から勘弁してくれ、とため息が漏れる。
「んー?ちょーっと喧嘩帰りにさー仁志クンの顔見たくなって朝から突撃訪問したら、小百合チャンに朝飯お呼ばれされてネ。」
甘えちゃったー、と笑う。
喧嘩帰りって…と思ったが、その後にさらりと云われた“顔が見たかった”発言がじんわりと胸に広がった。
「あら仁志、起きてたの。」
今気付いたのか母さんが眼を丸くする。
「さっきね…」
「それじゃあ、早く顔洗ってきなさい。朝練遅れるわよ。」
「はいはい。」
返事をして洗面所へと向かった。単身赴任で家を離れている父親が今の食卓の風景を見たら何と言うだろうか。
喧嘩帰りと公言する金髪のやたら美形の高校生がいる朝餉を。
………父さんも普通に受け入れそうだな。
夫婦揃ってやたら順応性が高いから母親と同じく一緒に笑いあいそうだ。容易に想像ができてしまい、げんなりとする。
智也を介して、つい最近顔見知りとなった巻谷先輩。噂通りというか、それ以上というか。
とにかく色んな意味でオソロシイ人だった。
そんなオソロシイ人を好きになった俺は怖いもの知らずなのかもしれない。
叶わぬ想いなのは百も承知なのだが、なぜか巻谷先輩は俺のことをよく構ってくる。
朝にこうやっていきなり来ることもあれば、部活帰りに会うこともしばしば。
時にはメールもくるし電話もする。
先輩がどんな意図でそんな行動をとるのか分からない。ただ暇つぶしにされているだけかもしれない。
それでもいいと思ってしまう自分がいる。
「………重症だな。」
鏡に映る自分に苦笑する。
いつの間に、こんなにハマってしまったんだか。
***
「小百合チャンー?」
「なぁに?おかわり?」
「違う違う。俺、そのうち仁志くんお嫁に貰うけどイイ?」
「あら、篤志くんがお婿には来てくれないの?」
「あ、それでもいいカモ。」
→シュウさん編
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