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番外編
一週間ぶりの








ゆらり ゆらり と世界が揺れる。
さざ波に揺られているみたいに穏やかな酔いが回っている。晩秋の少し冷たい風が火照った身体には心地良い。


「俺を迎えに来させるなんざ、お前何様だよ」


少し前を歩く男が不機嫌そうにブツブツ言う。口では文句を言いつつも歩調は俺に合わせてくれている。そんな分かりづらい優しさに頬が緩む。

「悪い悪い。鍵部屋に忘れたんだよ」

「だったら店に来いよ」

「怖ぇもん」

「いい加減慣れろよ」

「無理」

そう答えればひとつ舌打ちをされた。
そういえば、と思う。
コイツに会うのは一週間ぶりだ。
夜型のコイツと昼型の俺。きれいなすれ違い生活を送っていた。
いつもなら、コイツを無理矢理高校に行かせるために朝に叩き起こして朝食を食べさせていた。けれど、ここ一週間は講義で大量のレポートが出され、それに掛かりっきりだった。それに加えて、バイトも一人突然に辞めてしまって、休むことが出来ず大わらわだった。

だから、朝はコイツを起こさず早々に学校へ行き図書館に籠りレポートを書き、授業を受けて、夜はバイトをして、コイツを待たずにさっさと寝るという生活を繰り返していた。

今日はやっとレポートが終わり、バイトも休みで友達と呑んできたのだ。


一週間話さないだけで、何だか非道く久々に話した気分になる。
煌めくネオンの中を悠然と歩く背中を見つめる。
夜は、コイツにとって心地良いのだろう。昼間見せない雰囲気を纏っている。
ぴぃんと張った細い糸の上で遊ぶ、無邪気な子どもみたいな危うさのような。それでいて、眼は飢えた獣ののそれだ。
理性なんてかなぐり捨てた、その瞳は出会った時から変わらない。



「また、店に戻るんだろ?鍵くれたら後は一人で帰れる」


ん、と手を出すと歩みを止めて振り向いた。顔はこれでもかというほど不機嫌そうだ。


「……気に食わねぇ」

「呼び出したのは悪かったって。今度からは気をつけるからさ。だから鍵貸して」


人に使われるのが嫌いなのはよく知っている。
それを呼び出したのだから、機嫌が悪いのは当たり前だ。


「違ぇ」

「はぁ?」

「呼び出されたのは有り得ないけど、それじゃない」

「じゃあ何のことだよ」

「……なんで一週間も顔見せねぇんだよ」

「へ、」

予想外の言葉に眼を瞬かせる。
「なんで、てお前にメールしたじゃん。『レポートで一週間は忙しくなるから飯は勝手に食え』って」

「知らね」

「…お前、またメール見てないのかよ」

「うっせ。お前が顔見せないのが悪ぃんだろ」


プイッとそっぽを向く。
その仕草にまた眼を瞬かせる。じわじわと気持ちが競り上がって来て、口元が震えた。


「…すると、なに。お前…俺に会えなくて、拗ねてたの?」

「うるせぇ」


キ、と睨まれたが全く恐くない。俺は堪らず笑った。


「おま、…くくく…そんなに俺が好きかーっ!」


笑いながら肩を叩く。酔いのせいもあって、何だかとっても楽しい。くすぐったい気分と嬉しい気分と照れ臭い気分がごちゃ混ぜだ。

「違ぇ、触んな」

煩そうに肩に置いた手を叩かれた。

「ウソウソ。悪い、怒んなって」

ニヤニヤと笑いながら、腰に手を回す。悔しいことに身長が20cmくらい違うもんだから、肩に手を回したくとも回せない。


「うっせ。さっさと帰んぞ」

「あれ、店戻んないの?」


からかいを含みながら言えば、チラリと俺を見た。そして、唐突に唇に噛みついてきた。


「ちょ!ん…ふぅ…」

好き放題に口内を蹂躙され、気づけば腰に腕を回され、俺はなんとか縋りついているのが精一杯だった。
最後に下唇を甘噛みしてようやく唇を離された時には、息が上がっていた。

「おまえ…ここ、そと」

力の入らない手で軽く身体を押し返す。キッと睨んでみても、ニヤニヤ笑っているばかりだ。ああ、これじゃあいつも立場が一緒じゃないか。
むう、と頬を膨らませれば、ぐっと腰を引き寄せられる。


「――覚悟しろ」



耳元で、低く、毒を孕んだ声が響く。
思わず身体を震わせる。耳に熱が集まる、





「一週間、俺を放置したことを後悔させてやる」





舌なめずりした獣が、俺を捕らえた。



(…明日はサボりだな)



端から降参している俺は、また近づいてきた唇を避けることもせず受け入れた。







(馬鹿犬)






(俺だって会いたかったっつうの)





さて、一体誰の話でしょう(・∀・)←
end



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あきゅろす。
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