番外編
石焼き芋
※篤志と辰巳の日常です。CP要素は全くありません。
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“黒猫”に向かう道中。
ぴたり、と辰巳の歩みが止まった。
「…アツ、腹減った」
フードを被ったまま、平坦な声で呟く。
「げ。昼飯しっかり食った?」
「デザート忘れた」
「あちゃー、それじゃあもつわけないじゃん」
「………」
「あ、こらたっちゃん寝るなー。運ぶの面倒臭いから後5分歩けー」
「…無理」
「無理でも寝るなー」
今にも瞼を閉じそうな辰巳に、どうしようかと篤志は困った。
今日に限って食糧の持ち合わせがない。
いつも通り担いで“黒猫”まで連れて行っても良いのだが、自力で行ってくれることに越したことはない。う〜ん、と頭を掻いて辺りを見回す。ここらへんで何か食べ物屋かコンビニはあっただろうか。
ふと、この時期、よく耳にする音が篤志の耳に入ってきた。一定の音階が淡々と辺りに鳴り続けている。そうして、その音に乗っかって微かに匂ってくるあのにおい。
篤志は、鼻をちいさくならし、その匂いの出所を探る。音も匂いも段々と近づいているようだ。
「お、発見」
右の路地からお目当ての軽トラック出てきた。
「たっちゃん、ここで待って……って寝てるし」
塀に凭れかかって眠っている辰巳がそこに居た。
毎回ながらその早業に呆れるばかりだ。篤志は眠っている辰巳を置いてその軽トラックへと小走りで向かった。
軽トラックの荷台には煙突のついたオーブンのようなものが載っている。荷台につけられている旗には“焼き芋”の字が記されていた。
「おっちゃん、焼き芋くれー」
トラックの運転席に乗って、煙草をふかしていたオヤジに声をかける。
「あいよ」
煙草を外に放り、オヤジはのっそりと車から降りてきた。
「何本だい」
ぶっきらぼうに云うその姿は明らかに接客向きではなかった。
しばし思案し、篤志はおもむろに口を開いた。
「んー、大きめンとこ、15本で」
その言葉に、オヤジはぴくりと動きを止めたが、すぐに「あいよ。」と言い紙袋に焼き芋を詰め出した。その姿に篤志は、やるねぇと一人笑った。
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