番外編 かまって 未来話。由神×智也 「……せんぱい」 課題のレポートを打っていると、遠慮がちに隣から智也が服の裾を引っ張ってきた。 「ん、なんだ?」 「い、いえっ!やっぱりなんでもないですっ」 ぱっと顔を赤くして慌てて手を離す智也に首を傾げながら、またパソコンに顔を戻す。 カタカタとキーボードを打つ音が部屋の中に響く。 ソファの逆の端にちょこんと座った智也は、手持ち無沙汰にマグカップをいじっている。 「……せんぱい」 またぽつりと俺の名を呼ぶ。 「どうした?」 今度は顔を上げず、笑いながら尋ねる。 「……なんでもないです」 「一体さっきからどうしたんだ?」 「なんでもないんですっ」 少し拗ねたような智也の声を聞いて、苦笑しながら問い返す。 「そうは聞こえないが?」 クスクスと笑う。 キーボードの最後の一つを叩き、保存し、顔をあげる。 むすっとした顔で、お気に入りのクマの形のクッションを抱きしめている。 「抱きしめる相手が違うんじゃないか?」 クッションにまで嫉妬するなんて、どうかしてる。でも、智也の事となると、見境がないのはもう仕方ないと思う。 「……先輩は忙しいんでしょ」 「なんだ、構ってやらなかったから拗ねてるのか?」 「す、拗ねてなんかないもんっ」 図星だったか。 凄い勢いで顔を赤らめながら、反論する智也はあまりにも可愛すぎる。クスクス笑いながら、近寄れば顔をクッションで隠してしまった。 「………拗ねてないもん」 「そうだな。構ってやらなくて悪かった」 「せ、先輩、人の話聞いてます!?拗ねてないですってばっ」 「ああ、そうだな」 クッションを抱きしめている智也の耳にキスを落としてやる。 「聞いてないでしょ……」 げんなりした智也が小さく言った。耳まで赤い。 「聞いてる」 「嘘」 「じゃあ、訂正。本当は俺が構ってほしい」 そう言えば、智也はクッションから顔をあげた。眼を真ん丸にして、俺の顔を凝視する。 「そんなの抱きしめてないで、俺を構ってくれないか」 つう、と頬を指でなぞってやれば、みるみるうちに顔は赤くなっていく。その反応のよさにまた笑ってしまえば、口を尖らせる。 「からかった!」 「からかってない。お前が可愛くて笑っただけだ」 「か、可愛くなんかないですっ」 「可愛いよ、一番可愛い」 「〜〜っズルイっ」 ぎゅうっとクッションを抱きしめながら、智也が唸る。その智也の腕を引き、クッションごと胸の中にしまい込む。 「悪い」 「悪いなんて思ってないくせに」 「ああ、悪い」 「もうっ」 ぽかり、と胸を殴った後に、智也はクッションを脇に置いて抱きついてきた。それを抱きしめ返す。 「悪いって思ってるんだったら、構ってくださいねっ」 首まで赤らめている彼に、愛しさが募るのは当たり前だろう? そんな可愛らしい我が儘に、顔が緩む。 「――ああ、いっぱい構ってやる」 時々は、拗ねさせるのも悪くないかもしれない。 end ゲロ甘討ち死に御免!!←← [*前へ][次へ#] [戻る] |