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番外編
母の願い
※たっちゃんの過去話。キリリクでちょろっと出た、真知と洋一が出てます














辰巳くんは今日も元気に遊んでいます。

リビングのソファで昼寝をしている洋一くんの隣で新聞をじぃっと見ています。新聞紙の上に乗って小さな手で新聞を押さえています。何か面白い記事でもあるのか、それとも文字の羅列が楽しいのか。丸っこい後頭部がとても愛らしい。くせっ毛の撥ねた髪がまた可愛らしい。
そう思う私は大概親バカなのかもしれませんね。



「たっちゃん」



呼べば、ピクリと反応してこちらを振り向いた。不思議そうに首を傾げている。


「お腹減らない?プリン作ったんだけど」


ほかほかと湯気の立ったプリンを差し出す。ふんわりと甘いバニラの匂いがする。
辰巳くんは眼に見えては分からないけれど、確かに嬉しそうに眼を輝かせた。


わかるんですよ。親バカな私には。



「食べる?」

もう一度聞けば、コクリと頷いた。
リビングのテーブルにプリンとスプーンを置く。まだまだ小さい辰巳くんように甘さはごく控えめのプリンに辰巳くんの視線は釘づけだ。その姿にクスリ、と笑いながら辰巳くんの首にひよこマークの前掛けをつける。そうして、辰巳くん用の椅子に乗せてあげれば準備万端。


「さぁ召し上がれ」

ニッコリと笑えば辰巳くんが頷いた。


「……いちゃーましゅ」


スプーンを持ちながらペコリと頭を下げて、もくもくとプリンを食べ出した。


はっきり言って、可愛いです。

もう可愛過ぎて参ってしまいます。この頃辰巳くんに構いっきりで洋一くんが拗ねるくらいに可愛いんです。





だからこそ、私は『彼ら』に憤りを感じてなりません。





こんな可愛い子をどうしてあそこまで邪険にできたのか。どうしてこの子が忌み嫌われなければならないのか。一体この子が何をしたと言うんだろうか。


(不甲斐ない)


私が本当の親なら、真っ先にこの子を守っていました。誰から何を言われたって、辰巳くんは私の大事な一人息子だと言ってあげられました。


でも、私が辰巳くんと出会ったのは全てが終わってからです。私に出来たのは盾となって彼を守ることでも、槍となって相手を威嚇することでもない。

ただ、辰巳くんの傷が癒えるのを見ているしかなかったのです。



(本当に不甲斐ない)



自己嫌悪にため息が漏れた。すると、鼻先にずいっとスプーンが出てきた。ぷるんとしたプリンがのっかっている。


前を見れば、少し心配そうな顔をした辰巳くんがいた。



「……どーじょ」



彼の精一杯の優しさだ。じんわりと涙が滲むのを必死に抑えてプリンを食べる。そして、辰巳くんに笑いかける。


「美味しいね」


辰巳くんも口元を緩ませた。




「た〜つ〜みぃ」




さっきまで寝ていたはずの洋一くんがソファに胡座をかいて恨めしそうに見ている。


「お前はまたそうやって真知を独占しやがって…!!」


「そんなことより、洋一くん原稿上がったの?」

「うぐ…」

言葉を詰まらせて、洋一くんが少し後退る。

「お昼寝なんてして優雅に過ごしてるんだから、もう上がってるわよね?」

ニッコリと笑う。

「うぐぐ…」


「上がってるわよね?」


念押しすれば、洋一くんがそっと顔を背けた。


「……っ辰巳ぃー!真知がいじめる!」

もくもくとマイペースにプリンを食べている辰巳くんに抱き着く。

「たっちゃんに助けを求めないの!終わってないなら直ぐに仕事しなさいっ」

「だだだって、」

「だってじゃないの!また編集の人達に迷惑がかかるんだから!」

「うぅ…」

「ほらっ、仕事しなさいっ」





「………ごしょーしゃま」





私と洋一くんが騒いでいる隣で辰巳くんはプリンを綺麗に完食していた。


「たっちゃん美味しかった?」

そう尋ねれば、コクリと頷く。

その姿にやはり愛しさは募るばかりです。


過去を歎いても、返ってくることはありません。
だから、これから先を考えます。これから先、私がこの子の盾となりましょう。槍となりましょう。



そうして、この子がいつでも笑っていることを願います。



それが、私の願いなんです。







end



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あきゅろす。
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