番外編
ほわいとでぃ
'09ホワイトday
「智、」
呼ばれて、振り返る。
「何ですか?」
風呂上がりの先輩。スウェットの下に上半身は裸のままの姿で、頭をバスタオルで拭きながら俺の前に手をずいっと差し出して来た。手はグーの形のままだ。その行動に首を傾げる。
「手。出して。」
そう言われて、戸惑いながらも片手を出す。すると先輩がその手の上で手を開いた。
中から、色とりどりの小さな飴が降ってきた。
「わわっ。」
慌てて両手でそれを受け取る。
「それと、これ。」
先輩はスウェットのポケットから無造作に小さい箱を取り出し、飴の上に置いた。呆然と先輩を見上げている俺に今度は先輩が首を傾げた。
「どうした?」
「それはこっちのセリフですよ。何ですか、これ。」
「なにって、今日だろ?」
「え?」
「ホワイトデー。」
先輩から思いもよらない言葉に眼を見開く。
「よく、知ってましたね。」
人一倍行事に疎い先輩のことだから知らないとばかり思っていた。
「知らなかった。シュウさんに教えられた。バレンタインのお返しに飴あげんだろ?」
「まぁ、一般的には飴だったりクッキーだったりをあげますけど…」
だからいきなり飴を渡して来たのか。手の平にあるカラフルな飴玉を見て苦笑する。普通はラッピングしたりするんだけどなぁ。
まぁ彼らしいか、と言ったら、怒られるだろうか。
「飴はわかりましたけど、この箱は?」
「それもお返し。」
首を傾げていると、開けるよう促された。飴玉をテーブルに置き小箱のリボンをそっと解いた。
箱を開けて、驚いた。思わず先輩の顔をまじまじと見てしまった。
「これって、」
「どこで買ったのか調べた。」中には、俺が先輩にあげたピアスの色違いのものが入っていた。
色はごく薄い青。角度を変えれば、淡い月光を含んだ水の色にも見えた。
「俺のお前のイメージの色。」
恐る恐るピアスを手にとる。
「綺麗…」
光に翳せば、透き通るくらい繊細だ。自分はこんなに綺麗じゃないのだけれど、と思う。それでも、先輩が俺を想って選んでくれたことに、じんわりと心が温かくなる。
「ありがとうございます。」と言いながら、はた、とした。
あ、
「…俺、穴開いてない。」
校則もあるし、穴を開けるのは痛そうでこわい。
「開けてやる。」
「……痛い?」
「大丈夫だ。」
ニヤリと先輩が笑う。そっと俺の耳元に唇を寄せた。
「ヤッてる時に開けりゃあ、ぶっ飛んでわかんない。」
その言葉が一瞬理解できなくて、きょとんとした。
次の瞬間、理解した俺は面白いくらい赤くなった。
「絶対開けないっ!」
そう叫ぶ俺を先輩は愉しそうに見ていたのだった。
end
→おまけ
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