ちょっと嫌な不思議の国
「あ、プテラガイスト……ええー…」
あまりにもショッキングな光景に芳月は己の目を疑った。頭に白いウサミミを設置したプテラガイスト。何あれ、一体何があったんだ、それともあれか私が叩きすぎたせいか。
嫌な予感がして芳月は飛び去るプテラガイストの後を追う。暫くすると上空を飛んでいたプテラガイストの姿が消えていた。芳月は何処に隠れたのかと辺りを探す。するとプテラガイストが入っていけそうな穴を見つけた。一番ここが怪しいなと考えた芳月は一瞬悩んだがプテラガイストのあの姿が気になり穴に飛び込んだ。
「おおお!?落ちる滑る落ちるー!?あだっ!?」
まるで滑り台のように落ちたはいいが終着地点で尻を強かに打ちつけた。痛いと打ちつけた所をさすりながら立ち上がると、そこに広がる光景に思わず絶句。
まるで森の中、木々が生い茂っているのだ。まさかこれはアンダーグラウンドかとか考えながら芳月は辺りを見回しながら歩きだした。
「…っかしいな、いなくねーか」
『よっ、アリス!』
「その声はダッシュマック…寄るな変ロボットォォォォオ!!」
ゴッ
芳月は猫ミミを付けたダッシュマックスに反射とはいえ思いきりスパナを投げつけた。だってこれはもう仕方無い、いきなり猫ミミ付けた巨大ロボがいたら攻撃してしまうだろう。
心の中ですまんと謝罪してから芳月は先へと進む事にした。
「…なァんか、まるで子供の時読んだ童話みたいだな。ダッシュマックスもアリスとか言ってたし」
仮にそうだとしても物語通りに進む気も無ければ一々順番に覚えている訳でもないので唯一覚えている女王の城を目指す事にした。
世の中物語の世界位は都合よく出来ている筈なので城だってすぐにたどり着ける筈だ。その証拠という程でもないが城の外観は遠目からでも見えている。
兎に角城を目指す事にした芳月は道中森の愉快な仲間達と化したサンダーガイストとホーンガイスト、アーマーガイストをやや問答無用でお供にしてその背中に乗りながら森を抜けた。
「おー、近くで見ると尚の事大きいね」
『止めとけよアリス。ハートの女王は怖い方なんだぞ』
『アーマーの言う通りだぜ!』
『怖い、怖い』
「そんなにか。でも気になるし、ちょっくら忍び込んでくらあ。お前さん達はここで待ってて、逃げたら地の果てまで追いかけてやる」
一応の釘を刺してから芳月はロボット姿になったホーンガイストの肩から城壁を越えて木の枝伝いに地面に降りた。
成る程童話通り薔薇がいっぱいある。確か兵士がヘマして女王にリストラされそうになるんだっけ。ええと赤バラを白バラにしちゃったんだっけ、それとも逆?まあいいや。んであと裁判してなかったっけ。
「おー、これは誂えたようなペンキの数々」
ニヤリと芳月が笑った。
数々のペンキの中から黒のペンキを持ち出すと徐に城内のバラにぶちまけた。
「くーろーのバラにィかっえまっしょう」
ついでに城壁にもラクガキしておく。
芳月参上。
一度はやってみたいラクガキ。ガキっぽいとか言わないで下され。
満遍なくバラを黒くした芳月は満足したのか額の汗を拭った。
「さて、裁判してるとこ行こ」
芳月は中に入るべく1人突っ立ってる門番を殴り倒してから鎧を剥ぐとそれをつけ、中に入った。
裁判を何処でやっているか聞けば新幹線兄弟があっさり教えてくれた為芳月は悠々とそこへ侵入出来た。セキュリティー甘っ、でもありがとうよ新幹線兄弟。
しかし中に入ったら入ったらで脱力してしまう。何故なら裁判を受けていたのはエクスカイザーで、ハートの女王はダイノガイスト、その側にはウサミミのプテラガイストがいたからだ。勘弁してくれダイノガイストのドレスアップした姿とか何あれ視覚の暴力か。確かに恐ろしいわ、ああ脅威だよ怖いよ。
そして外は外で黒バラがバレたらしく騒ぎになっている。
これは、ちょっとマズいな。芳月は鎧を脱ぎ捨てるとエクスカイザーの元へと走る。
「エクスカイザー!」
『アッ、アリス!?』
「芳月!フケるぞ!」
『させるか!』
「ウサミミプテラは黙らっしゃい!チェストォォォォオ!!」
『ゴフッ!』
「エクスカイザー車になって!逃げるなら今だ!」
『えっ!あっ、ああ!』
「ヘイ、ダイノガイスト!お前さんにバラって想像つかんが赤より黒のが似合ってるよ」
殆ど偶然であったがバラを黒く塗っといて正解だったな。芳月は思った。
『し、しかし芳月。何処から逃げるんだ?』
「…よし、ここで出来るか分からんがやってみよう。スカイマックスドリルマックスたーすーけーてェェェェェエ!!」
ガッシャァァァン!
ゴゴオォォォォン!
ガラスを突き破る音と、地面を突き破る音が同時に響いた。芳月はヨッシャアと拳を握る。
「スカイマックス!ドリルマックス!壁を突き破りたいから手貸して!」
『任せろ!』
『了解だ!』
『それを俺が許すと思うか!!』
「ダイちゃんたらセコいな、女王なら壁の一つや二つや三つや四つ、城崩壊位でギャアギャア言うなよ」
お望みなら爆破するがと物騒な事を言い始めた芳月をエクスカイザーが捕獲しスカイマックスらが突き破った壁から逃走を始めた。
「ちょちょちょエクスカイザー!?いきなりそんなガチでロボのまんま走ったら」
うっ
胃の中身が逆流し芳月は思わず口を押さえたが、
あ、これ本気でヤバい
直後芳月の視界が真っ黒に染まった。
「…駄目だ吐くー!………ゆ、夢か」
『どうしたんだよ芳月?』
「い、いや何でもないダッシュマックス。ちと変な夢を見た」
ダッシュマックスの車内で目が覚めた芳月はあまりの夢に深々と息を吐き出し、ダッシュマックスを呼んだ。
『何だよ?』
「ごめん、何か手酷くお前の事ぶったわ私」
『は?』
「あと頼むから猫ミミだけは何があってもつけないでくれ。またぶつかもしれん」
まったく呑み込めていないダッシュマックスを余所に、芳月は明日プテラガイストに会うような事があったらウサミミはつけないでくれと言おうと決めたのであった。
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