ピクニックデイ
注)管理人は広島弁に詳しくない為ランページの口調に違和感を感じられるかもしれませんがそこはそっとスルーしてやって下さい。
「ふー…いやはやいやはや、今日も天気が良い事良い事」
『我が輩は気分最悪だ』
「じゃ着いて来なきゃいいのでは…」
『単独で行かせるなとコンボイが煩いのだ』
「保護者か。相手が相手だからどうって事ないと思うけどなあ。向こうにゃ子供もいるし」
持参した弁当片手に(自作と言ったら皆に驚かれた、何でだ)約束の待ち合わせ場所へ向かう芳月とデプスチャージ。待ち合わせ場所は見晴らしのいい丘の上、目的はそうピクニックだ。とは言ってもやる事は食事をとって談笑なのでピクニックと言えるかどうかは不明だが芳月に思い当たる表現がこれ位だった為ピクニックとする事にした。
「おお見なよデプスチャージ、もうカニさんとミューテイトちゃん来てる」
『丁度良い。今日の昼食はカニ鍋にするか』
「残念ながらカセットコンロも鍋も無いから無理だねぇ。おーいランページィ、ミューテイトちゃーん」
遠目からでも分かるように手を振ってみせると後ろを歩いていたデプスチャージが不機嫌オーラを全開にさせた。
何だ、そんなにカニが嫌いか。
しかし子供にそんな不毛な戦いを見せる訳にもいかないので問答無用で矯正した。教育に悪い事この上ない。
「ミューテイトちゃん、久しぶり」
『芳月、久シ、ぶり』
「うんうん、元気そうで何よりだ。そうだ、早速御飯にしよう。ミューテイトちゃんお弁当は?」
『持っテきた、よ』
「おお、じゃ食べよう食べよう。私腹減ってさー」
草地に座り込み自分の弁当を広げる芳月。トランスミューテイトも芳月の隣に移動し持参したエネルゴンの摂取を始めた。
2人でほのぼのとランチタイムに入ってしまった為、保護者のオッサン2名は非常に気まずい…と言うよりピリピリした空気を作り出した。何故こんな不愉快な奴の面を見なければならないのかと両者は思った。しかし芳月はそんな様子に気付く気配はなく食事と談笑に夢中である。
話もせず、黙ったまま芳月らを見ているデプスチャージ。そして沈黙に耐えられなくなったランページが遂に口を開いた。
『…おい』
『黙れ、カニ鍋にされたいか』
『まだ何も言うとらんだろうが!』
『煩い。我が輩は今忙しいのだ』
『何もしとらんクセにか』
『貴様には分かるまい。我が輩は今ビデオを撮っているのだ邪魔をするな』
………、ビデオ?
ランページは不思議に思ったらしく、ランページの方からは見えていなかった側のデプスチャージの手を見た。その手にはビデオカメラが。こいついつの間に。
『おんどりゃァァァァァァァア!!何勝手にビデオ撮ってるんじゃァァァア!盗撮は犯罪って知らんのか!』
『盗撮ではない。コンボイ達から頼まれた経過観察の為の記録だ。それなら貴様はさしずめロリコンか?』
『誰がロリコンじゃあ!?』
『いい加減黙れ。これ以上ノイズは要らん』
『だったらその盗撮止め…』
『芳月ハ、ラン、ページすキ?』
!?
突然聞こえてきたあどけない声の質問に両者はピタリと動きを止めた。
それと同時に両者は聴覚センサーを最大限に上げる。
「うーん、私カニは食べる作業が面倒であんまり食べないんだよなあ…。もう身を出してある時でないと食べないし。第一、高い!」
そんな答え聞きたくない
いや、期待してた訳ではないがあまりにも期待を裏切る内容の答えにランページはおろかデプスチャージも頭を抱えた。
『ジャア、キラい?』
「嫌いじゃないよー、ミューテイトちゃんは好きでしょ?」
『ウン』
「そかそか、仲良き事は何とやらだねぇ。うむ、卵焼き上手く焼けてる」
『芳月、今度ハ、いつ…会エる?』
「んー…確かな事は言えないけど、仕事で連休とれた時かねェ」
『ソッカ…』
「ま、でもまたピクニックしたいね。ミューテイトちゃん、付き合ってくれるかね?」
『…ウン!』
「ほんじゃ約束って事で」
珍しくヘラリと毒気の無い顔で笑った芳月。ゆーびきーりげんまん、と約束を交わしてから弁当をかき込むと、芳月はべろーんとその場に寝転んだ。
燦々と降り注ぐ太陽の暖かい光が気持ち良いのかすぐに微動だにしなくなった。
「……………」
『……………』
大の字で完全眠りの世界に入った芳月とそれに合わせるようにスリープモードに入ったトランスミューテイト。
2人のその姿はさながら親子か姉妹のようで、その癒やし系光景をデプスチャージはしっかり撮影し、ランページも見入っていた。
『おいエイヒレ』
『何だカニすき』
『そのビデオ、後でダビングしてワシにも寄越せ』
『…芳月の呆けた寝顔に免じてダビングしてやろう』
その時だけ、ランページとデプスチャージの雰囲気に刺々しい物が無くなった。
しかし数日後ビデオの存在を知った芳月にランページとデプスチャージがまとめて教育的指導をされたのは言うまでもない。
因みにビデオはばっちり没収されたようである。
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