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覇将軍と雨宿り




天気予報が無いって困るなとつくづく思った。





「ぎゃー!冷た冷た!濡れる濡れる!」
『おい、芳月。向こうに雨宿り出来そうな洞窟がある。其方に行くぞ』

手綱を引かれ芳月と曹操は雨をしのげそうな洞窟へと入った。曹操の愛馬の絶影や芳月が乗ってきた馬も中に入れてやり、布で雨露を拭いてやる。

「まさかいきなり降ってくるとは思わなかった」
『仕方あるまい、山の天候は崩れやすいのだ』
「でもあんなに大降りじゃ暫くこっから出られないね、いつになったら止むやら」
『俄雨ならば良いが、そうでなければ濡れて帰るしかないな』
「うえー…マジすか」

びしょ濡れで城に帰るのは遠慮願いたい。しかし洞窟の外で降る雨の勢いを見るに直ぐには止みそうにない、芳月は溜め息を吐いた。

「あー…でも今でも十分濡れてっから心なしかちょっと寒い」
『我慢しろ』
「我慢しろってあんた…、炎系の技使う癖に冷『この洞窟で大紅蓮斬をやれと申すか?洞窟が崩れるぞ、それでも良いのか』
「…良クナイデス」

自身の生き埋め状態を想像したのか、サッと顔を青くした芳月。つか手加減と言う選択肢は無いのか曹操、と思いつつも言えばまた言い返されるので思うだけに止まった。

「へっくし!オオオ寒い寒い…!」
『冷えたか』
「そらもう濡れ鼠だからそりゃ冷えますことよ…!えっくし!」
『ならばもう少し近う寄れ、離れていては寒さは増すばかりであろう』
「え、ちょ、何それキャラじゃない事言わないでよ」
『お前も失礼さに磨きがかかっているな』
「いやいやいやあんたのせいだからね」
『下らぬ事を言うな。風邪をひきたくなければ此方へ来い』

ぐいっと腕を引っ張られ曹操の隣に座らされる。ぴったりくっつく肩や腕、しかしやはり冷たいものは冷たい。

「あのさ、冷たいもん同士が並んでも冷たいだけじゃなかろうか」
『余は暖かいから構わぬ』
「オイ」
『冗談だ。だが、離れているより幾分ましだろう』
「そうかもしんないけど…、こっぱずかしいじゃん」
『ふっ、可愛げのない』

もう一度腕を引かれ、今度は背後から曹操に抱き締められた。腹に回された曹操の腕のせいで逃げるに逃げられない。

『お前が風邪をひいては筍イクや司馬懿、曹丕が煩い。暫くこのままでおれ』
「むむむ無理無理無理!恥ずかしくて頭パーンてなるなるなる!」
『大人しくしていろ、どうせ雨が止むまでの僅かな間だ』
「ぬうう…筍イク先生か徐晃辺りが迎えに来てくれたらなあ…」
『自分達も雨に濡れるというのに来る訳なかろう』
「じゃあ今すぐ帰る」
『この大降りの中をか?お前一人では迷って終わりだな』
「ひどっ」

くくっと曹操が意地悪く笑う。これは完全からかっている。芳月は眉を寄せてからお返しとばかりに曹操を裏拳で叩いてやった。

『…お前と言う奴は』
「へん」
『全く…』
「ぐえっ」

更に曹操が仕返しだと腕に力を込めて芳月の腹を圧迫した。これにはたまらず芳月も悲鳴を上げる。

「あ、あんたちょっとは加減しなさいよ…!」
『おお済まんな、闘姫ならば大した事はないと思ったのでな』
「そ、その割にやたらと力入ってたような…!」
『気のせいだ』

いけしゃあしゃあと言う曹操にぴくぴく震えながら芳月は痛みに耐えた。

『余がいる前で他の男を望むような事は言うな』
「だって早く帰れたら万々歳じゃん」
『察しの悪い女だ』
「何さそれ」
『言葉の通りだ』
「感じ悪」

チッと舌打ちする芳月だが曹操が再び力を入れた為たまらずギブアップ。諦めた芳月は口を開かず大人しく黙る事にした。
しかしよくよく考えればこの体勢は恋人同士がする事のようでもあるが何故だろう、それっぽさがまったく無い。別段それを望む訳ではないが、ただ自分とこの相手ではそんな色のある間柄が似合うとも思えない。そう思わせるのもきっとこのスパルタ男の日頃の行いのせいだ。

『芳月』
「何さ」
『お前の体温が高いせいだ。余は少し寝る』
「は!?」
『動くでないぞ』

そう言って、曹操はずっしりと重量感ある頭を芳月の肩に乗せた。あまりの重さに芳月が重っと悲鳴を上げる。
しかし全く退ける気のない曹操に芳月は半ば諦めの入った息を吐き出して早く雨が止まないかなと思いながら寝入った曹操の頭を軽く小突いた。





(一瞬だけ変にどきっとした自分が馬鹿みたいだ!)








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