不意打ちはにー
「ジャーズー、SOSの為ちょっとこの島燃やしてー」
『燃やしたら駄目ェェェェェエ!!』
据わった目で言ってくる芳月にジャズは力の限り阻止に掛かった。駄目だコイツに火は与えられない。
完全放火魔になる。
「一番手っ取り早いと思ったのになあ」
『お前、最近思考がディセプティコンだぞ』
「ほっとけ」
そもそも、芳月がそんな発言をする事になったのはレノックスやエップスらによる企みの為だ。ジャズが上手い事2人きりになる方法は無いものかと彼らに相談した結果「1日限定で遭難してみろ」という事になった。後はそのままあの手この手で芳月と一緒に船に押し込まれ映画並みの演出で遭難させられ無人島に流され今に至る。
「仕方無い、取り敢えず食料と水の確保をせにゃ。何か狩るか」
『待て待て待て』
「お前さんはまだしも私は食わにゃアウト、食料は必須なんだなこれが。ジャズは適当にSOSアピールしといてくれ」
『適当ってなあ…』
「あ、哺乳類的生き物発見。ッシャァァア待てやこらァァァァァア!」
『動物虐待反対ィィィィイ!』
ジャズは慌てて芳月を捕獲。駄目だ、完全狩人の目になってる。今離したら某ゲーム張りのハンターになる絶対。
「えーじゃどうすんだよ、私空腹になるじゃんよ」
『心配しなくても良いって』
「何で」
『俺が通信入れれば迎えなんかすぐ来るって、だから心配要らねえよオネェチャン』
「あ、そっか。じゃ今すぐ迎え呼んでくれい」
『今その通信機能を自動修復中だから少し待ってくれよ』
その実、別に故障している訳でも何でもなく通信はいつでも出来るのだが、出来る事ならまだ2人きりでいたい事もありジャズは芳月に嘘を吐いた。
しかし芳月はあまり気にしたふうもなくそうかと頷き大人しくするに落ち着いた。
『夜にもなれば迎えも来るさ』
「じゃ大人しく釣りでもしますかね。ジャズ、釣り竿に変形してくれ」
『無理だ』
「デスヨネー」
『まあ大人しくしてろって』
「仕方無い、そうしますか」
芳月は渋々ながらソルスティスに変形したジャズの車内に入る。ゆるゆる頬を撫でるエアコンの冷たい風が心地良い。
運転席で椅子を後ろに倒して楽な体勢をとり、芳月はゆったりと脚を組む。
「ジャズ君よ、一つだけ言っといていいかね?」
『何だ?』
「基地に戻ったら一発殴らせてくれ」
『……、気付いてたか?』
「気付くも何も、聞いてたから知っとるよ。レノックスさんとエップスさんらのお陰で流れ着いた事も」
『…こりゃ参ったな』
「事前にサウンドウェーブが教えてくれたからね。まあ予定も無かったし付き合う事にした訳よ」
『お見通しって訳だ』
「事前情報があったからね。ま、一種のバカンスとでも考える事にしたって訳」
『成る程、恐れ入りました』
「恐れ入るのはサウンドウェーブの方だよ。一体何処から盗聴したやら…」
重く溜め息を吐く芳月にジャズは確かにと苦笑する、と同時に薄ら寒さを感じた。何、俺の行動逐一監視されてんのか。
ジャズの心情を知ってか知らずか芳月は全く恐ろしいと呟く。
「その内、基地内調べにゃいかんねぇ」
『賛成だ』
「でも何でまた遭難なんかしたがるよ?何、自分探しでもしたかった?」
『んなわけねぇだろ!』
「あれま、違った?」
『違うに決まってんだろ…』
「じゃ何で」
『ここ最近、2人でゆっくりする暇も無かったからな。良い機会かと思ってよ』
「あー…まあ、そうかもね。じゃあお迎えが来るまで昔話でもしてみるかい」
『初めて会った時とか?』
「ああー…第一印象は正直何だコイツだった」
『マジかよ』
「今でこそ言うけど苦手なタイプだったからなあ」
『そうだったのか?』
「そ、完全避けて通るタイプ」
今語られる己の第一印象に内心ジャズはへこんだ。まあ確かに当初はあまり積極的に関わる様子じゃなかったなと思いながら、ジャズは一つ聞いてみる。
今現在ではどうかと。
「今は、そう…だなあ。黙って今回の企みの乗っかろうと思う位には印象良いんじゃないかなァ…」
『へ?』
「割と、好きじゃないんかなァ」
『い、今何て!?』
「暑い、疲れた、眠い、寝る。お休み。迎え来たら教えとくれい」
『ちょ、まっ、もう1回!』
「却下」
脚を組み直して片手を振って答える気の無さをアピールする芳月はサッサと眠りの世界に入ってしまう。
完全不意打ちの芳月の答えに、録音を忘れたジャズは完全意気消沈。それも手伝ってかエアコンの冷たい風も弱くなる。
『いてっ』
「冷たい風」
かつん、と足で蹴飛ばされたジャズは慌ててエアコンの調子を元に戻す。
そして気持ち良さそうに顔を緩ませ寝入る芳月の寝顔をメモリーに収めながら、ジャズは何とも言えないもやもやさを抱えたまま迎えを待つ事になるのだった。
不意打ちはにー
(…言ってみたかっただけだぜ)
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