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真夏の事件






「ああくそあっついわあ…」

『おい、まだ休憩には早いぞ』

「うーい、分かってますよ」

『よし、なら始めるぞ』

「おっけーアイアンハイド。…………お?」



ぶしっ


だらーん




「あ、」



キャアァァァァァァア



真夏のディエゴガルシアに金属生命体達の悲鳴が響き渡った。念押ししよう、芳月ではなく金属生命体達である。

ある者はわたわたと慌て、ある者は興味深げにそれをつつき、ある者は救急車を呼ぼうとして軍医に黙らされ、ある者は石化したりと非常に面白おかしい事になっていた。


事の始まりは芳月がアイアンハイドといつもの訓練をしていた事から。その日の気温は高く、いつもと同じ訓練を始めてから30分程経過した頃、突然芳月が鼻血を噴いてバタンと倒れた。
冒頭の悲鳴はそれを目撃した金属生命体達のものだったのだ。
ラチェット曰わく、暑さにやられたのだろうとの事。確かにここ最近は暑かった為、流石の芳月も耐えられなかったのだろう。

まあ倒れた芳月自身意識を失った訳ではなかったので鼻に詰め物をして慌てふためく金属生命体達を眺めていた。あー、まさか女が鼻血噴くシーンなんか殆ど見ないよなあと他人事のように思いながら鼻の詰め物を交換した。その隣ではスコルポノックに乗ったフレンジーがポケットティッシュを持っている。

「いやあ愉快だなあ」

「お前なあ…女なんだからもう少し恥ずかしがれよ」

「無理言わないで下さいレノックスさん。何故金属生命体相手に鼻血位で恥ずかしがらにゃいかんのですか」

「…こりゃ当分嫁にゃいけねぇな」

「行く気無いっすエップスさん」

「「だからせめて恥じらえ」」

「無理無理。おぶっ、また血がっ。あ、もうティッシュ無い」

『取リニ行カネェトモウネェナァ』

「うわ、マジでか」

慌てて詰め物の交換に走る芳月。
その姿を見送っているとブラックアウトが寄って来た。

『芳月は?』

「詰め物換えに行ったぞ。こりゃ今日はあまり無理させられないから、お前ら変に絡むなよ」

『努力はしよう』

「いやレノックス、もう絡まれてるぞ」

スタースクリームに、と言うエップスにレノックスは頭を抱えた。
スタースクリームはふらふらしている芳月を容赦なくつついている。ベシャ、芳月が転んだ。わなわなと震えて起き上がらない。あ、これは駄目だ。レノックスとエップスは思った。

『オイ!オネェチャンに何すんだよ!』

『虫螻1匹倒れた位で煩いぞ銀チビ』

ぎゃあぎゃあと取っ組み合いが始まった。巨大な金属生命体が暴れまわっては格納庫などひとたまりもない。
レノックスとエップスは怒りでスタースクリームに向かって行きそうな芳月を抱え上げて避難を始めた。こんな場所な放置したら完全死んでしまう。

『芳月は大丈夫だろうか?』

「ああ、何とかな。取り敢えず暴れ出さないようにふん縛ってブラックアウトの中に突っ込んでおいた」

『…彼女は月日を経るごとに逞しくなっていくな』

「いやあお前らの影響だと思うぞ」

心配そうに問い掛けてきたオプティマスにレノックスは外のブラックアウトを指差した。扉がガツンガツンと不吉な音を立てている。その様子にオプティマスとレノックスは顔を見合わせた。いかんあれは怒りのメーター振り切ってる。
レノックスはブラックアウトに芳月を絶対に外に出すなと念押しし、オプティマスと共に未だ暴れ回る連中を止めにかかった。







「ブラックアウトォォオ…開ーけーろー」

『悪いが無理だ』

後ろ手に縄でぐるぐる巻きにされた芳月は根性で立ち上がり、まだ自由な足で扉を蹴りつけた。
しかし頑丈な扉は重い音を奏でるだけで開く気配は無い。

「なろォ…」

『大人しくしていろ、また噴き出して倒れるぞ』

「ぐ…」

確かにまた鼻血が噴き出すのはまずい。
いくら自分が健康優良児でも大量に鼻血を出せば貧血にもなる。…とても恥ずかしい話ではあるが。
芳月は低く唸ってから漸く諦めたように深く息を吐き出し、座席に腰掛けた。

「ね、ブラックアウト」

『何だ?』

「ドラ○もん流してよ、モニターにさ。外が収まるまで暇だしさ」

『…………。』

「?おーいブラックアウト」

『あの青狸の何処が良いんだ』

「可愛い所」

すぱーんと断言した芳月。
ブラックアウトは再び沈黙し、たっぷり30秒経ってから分かったと応えた。
モニターに芳月が好きなブラックアウト曰わく青狸が映し出され、芳月は機嫌よく見始めた。

『…我々の方が遥かに優れているのだがな』

「お前さんアニメに喧嘩売ってどうすんのよ。そりゃお前さんらの方がスペックも上だろうし」

『…』

「でも人間味とかならお前さんの言う青狸のが上かもよ」

『ふん…』

「ま、私もそうだけど、どんな生き物も長所短所あるよ。そういうのが味があって良かろ?」

『そういうものか』

「少なくとも私はね。それも個性ってやつよ、多分。あ、そろそろ鼻血止まったかな」

すんすんと鼻をひくつかせ、芳月は外に目をやった。おお向こうもそろそろ沈黙しそうだ…が、

「…ブラックアウトブラックアウト」

『何だ』

「ごめん、冷房入れて」

バタリ、芳月が倒れた。

真夏の機内の室温に、流石の芳月もとうとう参ってしまったのだ。

そしてブラックアウトが珍しく慌てて軍医の所に駆け込む姿が基地内で数多く目撃される事になる。









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