ぜろいち
太陽の子 ぜろいち
空は今日も青かった、太陽は今日も眩しかった。なんて堅苦しい始まりはこの話には似合わない。
だって、そんなに重くなる予定ないですからね、このお話の舞台は、埼玉にある某学校をもとに
ああ、いや、いいや、もういいや、本編にはいろうじゃあないか、そうさそうさ!
「見てこれ、すごいでしょ、ちょ、ねえ!」
赤のチェックマークがいっぱいついて、大きく2と書かれた紙をヒラヒラと持ち、友達に見せるこの
少女こそ、この物語りの主人公である"苗字 名前"なのである。この少女、簡単に言ってしまえば、
馬鹿、天然、鈍感という三つから作られていると言っても過言ではないぐらいなのである。
「名前、あんたホントに馬鹿だよね」
「そう?だってこのあたしが数学で2点も取れたって奇跡じゃない?すごくない?過去最高だよ!」
やっぱり阿部君のおかげだわあ、と叫ぶ名前にクラス中の視線が集まる。その声はクラスだけでなく、その
隣の教室や、その隣の隣の教室や、その隣の隣の隣の(以下省略)にも聞こえているのであって、すると勿論
阿部君本人のいるクラスまで聞こえたわけであって、どうやら爆笑の渦に巻き込まれたらしい。(後日本人曰く)
「まじ!苗字に勝った!」
「うっそ、まじまじっ!悠ちゃんに負けるとかショック!」
「名前、あんたホントに自重したほうがいいよ」
うわショックショックと泣き叫ぶ名前と、勝った勝ったと叫ぶ田島。この2人の争いはテスト時には絶対と言
ってあり、その時その時で勝敗も変わってくるのだが、その点数というのが2人とも低レベルなのである。
しかし、田島にいたっては部活に出るでないが関わってくるため、最近の軍配は田島にあがっているのであった。
「うはあ、これで3連敗中じゃん」
「このままオレゆーしょーするもんね!」
「何言ってんの、優勝も何もないよっ!っていうかCS残ってるもんねっ」
おいおい、今は野球の話じゃねーだろっ、なんていうクラスメイトからの野次が飛ぶ。否、野次というより
ツッコミといったほうが断然正しいであろう。そして、この辺の話がそろそろ変わり始めるあたりから、2人
の保護者的ポジションに立つ泉がとめに入って一件落着になる。今日もいつもと同じパターンだ。
「はいはい、お前等野球の話は部活のときにしろって、とりあえず今は席着け」
「うわ、でたお母さん!」
「苗字は黙って早く席に戻れ!っつか誰がお母さんだ!」
「はいはーいっ、オレも泉はお母さんだと思いますっ!」
元気よく挙手し、誰も指名していないのに勝手に言い始める田島。確かに、泉は2人の保護者的ポジション
にいるため、母親とも言えるかもしれないとクラスの数人が納得する。もう、むしろ中堅手やめて母親になれ
ば?みたいな、もう一生2人の面倒見てくれよ、みたいな。そんな空気が少し漂っていた。いや、完全かな?
「泉が苦労してることはわかったから、2人とも早く席に戻りなさい。じゃないと部活には行かせないよ」
「げっ、シガポ!そっか、今は数学の授業か!」
「オレ部活出たいから席にもどりまーす」
救世主、シガポの登場。いやいや、先生が数学の担当でよかったよ、と泉は心の中で思いながら溜息をついた。
結局は、保護者の泉よりシガポのほうが上手いのだ、何がって、2人をうまく操るのが。だったら保護者交代して
くれよ、と泉は心の中で毒づくがそんなこと、このシガポに伝わるわけもなく、察知してくれるわけもなく。
「お母さん、お母さん」
「誰がお母さんだよ」
「泉」
ああ、そうか、コイツ馬鹿なんだ、改めて実感する泉。さっきから泉の背後からはブラックなものが、ゴオゴオと沸いて
いる気もするが、馬鹿で鈍感でその上天然も含む名前には関係のない話であり、恐れという物を抱くわけでもなかった。
「思ったんだけど、やっぱり泉はお母さんじゃない」
「なんだよ、まだひきずってんのかよ」
「いや、そうじゃなくてね、やっぱりお母さんは花井だと思うの」
泉はこのとき、もう一生コイツとは会話をしないと決断した(らしい)。結局はひきずっているんだ、お母さんの話。会話が
聞こえたクラスメイトAはそう思った。じゃあさっきの"いや、そうじゃなくてね"は何の意味があったんだろうか。本物の馬
鹿とはこのような人物を指すのだろうか、今後この疑問がクラス会の議題になることもそう遠くはない気がしてきたそうだ。
CS=クライマックスシリーズ 09/09/14 @ぱこ
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