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ひそかに思う隆也少年がいた








                         阿部隆也は今まで何十回と誕生日を祝ってきた。12/11
                        がくるたびにまわりからおめでとうと、いわれてきた。学校
                        の同級生がサプライズで誕生日会をしてくれたこともあった
                        し、今年だって西浦野球部の賑やかな面子が祝ってくれる。
                        (特に田島とか)嫌でもやってくれる。否、嫌とは思ったこと
                        はない。しかし、その数々の歴史の中でも阿部隆也の一番
                        はシニアのときのこと。まだ中一の時のことだった。当初は、
                        腐りに腐っていた榛名とも徐々に慣れてきた時期のことであ
                        る。




                        ***



                          阿部隆也の誕生日である12/11、その日も練習があった。
                         勿論、練習のあとにチームメイトが誕生日会を開いてくれる
                         予定であって、中一の頃の阿部隆也は、ものすごくうきうき
                         していた。(今の阿部隆也では一切そんな素振りはない、け
                         ど実は内心うきうきなのかも)


                         「隆也ー行くぞー!」
                         「おー、すぐ着替える」


                          隆也少年は待たせている仲間のために急いで着替えた。
                         どこに行くのかは聞かされていないが、どうせいつものたま
                         り場であるファミレスだろうと隆也少年はふんでいた。


                         「おい、隆也」
                         「なんスか」


                          聞きなれたその声に隆也少年は動作をやめずに答えた。
                         というより、もう疲れていた。榛名と正面からぶつかってい
                         ってると練習の終わりには完全にヘロヘロになる。


                         「名前しらねえ?」
                         「名前さんなら多分あっちにいると思いますけど」
                         「さんきゅ」


                          名前とは、隆也少年の一個上、つまり榛名と同い年の人で、
                         ここのコーチの娘らしく、暇さえあれば手伝いに来る女子の
                         名前だった。ちなみに、隆也少年の片思いの相手でもある。
                         実は、まだその名前からおめでとうと言う一言をもらていないの
                         であった。


                         「隆也君!よかったー、まだいた!」
                         「名前さん!」


                          噂をすればなんとやら、帰る準備万端の格好をしている名前。
                         先ほど榛名にうそを言ってしまったという罪悪感などなかった。
                         ただ、どこかの少女漫画みたいな、時間よとまれなんていうら
                         しくないことを思った。


                         「お誕生日おめでとう!プレゼント用意したかったんだけど、
                          時間とお金がなくって無理だったからこれで我慢して!」
                         「ありがとうございますっ!!」


                          隆也少年の手のひらにちょこんとのせられた、小さい飴。なん
                         とも名前らしいと思った隆也少年。気持ちはもう有頂天に達してい
                         たが、それも長くは続かないこと。榛名が戻ってきて名前を捕まえ
                         て帰ってしまった。残されたのは隆也少年と手のひらにのっかっ
                         ている飴ひとつ。気になった隆也少年はチームメイトA君に榛名
                         と名前の関係を問うてみると衝撃の答えが返ってきたのだった。




                        ***



                          毎年毎年12/11になるとその苦い思い出がよみがえってくる。別
                         によみがえってこなくていいのに、よみがえってくる。高校に入って
                         初めての今日も同じことの繰り返しだった。朝からその思い出が頭
                         にまとわりついていて離れない。花井になにかあったのか?と聞か
                         れたほどのどんよりだったようだ。そして今日もひたすら練習練習で
                         終わってみれば空は真っ暗。冬という季節のせいもあってか、その時
                         間は早く感じられた。ただ、去年や一昨年と違うのは、そのフェンスの
                         向こう側に見慣れない制服を着た、見慣れた顔がいるということ。隆也
                         少年、否、阿部隆也はこれでもかってぐらい目をこすった。幻をみている
                         んじゃないのかと。しかし、それは現実だった。


                         「お誕生日、おめでとう!」




                         










                         絡みがない 09 / 12 /11 @ ぱこ






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